Folge 85 開けられた扉

 美咲の手伝い、終了。

 バーベキュー場所のそばにある水場で手を洗う。

 二人共手洗いが済んで手を拭いて……。

 どちらからともなく、手をつないだ。

 極自然過ぎて、つないだ実感が湧いた瞬間に緊張した。


「なんか……つないじゃったけど」

「ええ、嬉しいです。同時につなぎましたし」


 良かった。

 いまだに女の子に対して何が正しい行動なのかが分からなくて。

 他の女子ならこんなことは聞きづらかったかもしれない。

 でも、今では傍にいるのが普通となった美咲。

 なんでも聞くことができて、どんなことでも聞いてあげられる。

 もしかして、オレって女子にとっては落としにくいのだろうか。

 以前、咲乃もそんなことを言っていたな。

 扉を開けてくれない、と。

 無意識で簡単には心を許していないのか。

 自己分析なんてあんまりしないけど、してみるとそうなのかもと思った。

 開くまで扉を叩き続けたさくみさ。

 扉を開いた人には手厚くなるのが必然。

 開けたことで気持ちが本物なのだと確信できるということか。

 さくみさ――。

 オレにとってこの双子は、貴重な出会いを運んできてくれたのかも。

 ならば逃してはいけない。

 なんてこった、オレはとんでもない幸運の持ち主なのでは!?


「どうしました?」


 ギュッと手を握る。


「いや。オレなんかの扉を開けてくれて……ありがとう」


 空いている手でつないでいる手を包む美咲。

 そしてポンポンっと軽く打つ。


「開けたくさせたのはサダメちゃんですよ。これでも頑張ったんですから」


 頑張ってまで寄って来てくれた。

 こんなの……、ここまでしてくれた人……。

 大事にするしか、無いよ。


「その代わり、咲乃と二人掛かりになってしまったので、今度はそちらが頑張る番ですよ?」

「どちらか選ばないとダメかな」

「あら、どちらも認めてくれているんですか?」

「二人共……中のオレに会いに来てくれたんだ。そんな人、弟妹以外にいない」

「ふふふ、そうなんですね。いっそのこと、どこか別の国にでも行きますか?」

「ん?」

「この国では選ばないといけないじゃないですか。一人じゃなくても良い所ですよ」


 自分たちが求める環境が手に入る場所か。

 魅力的だけど……。


「……それって、一人に絞らなくても構わないと美咲は思っているの?」

「私は、とにかくサダメちゃんのそばに居させてもらえればいいので」

「女の子としてはやっぱり、唯一の相手になりたくは無いの? よくわからないし、オレが聞くのも変だけど」

「最初はそう思いました。でも、みんなと一緒にいるのってとても落ち着くんです。今はこのままでいられたらって」

「彼女とか、お嫁さんとか、はっきりさせなくても良いと?」

「お嫁さん……ドキッとしちゃいました。もちろんなれたら嬉しいです」


 綺麗な笑顔だなあ。

 まさかこんな話をしている時に見られるとは思いもしなかった。


「だけど、お互いの気持ちがそれに匹敵するのなら、公の形は無視してもいいかなって」


 出会ってからの時間はそんなに経っていないはずだ。

 それなのに、何か大きな壁を超えた関係になっているように聞こえたし、思えた。

 正直その気持ちに甘えたい自分がいる。

 だってさ、さくみさとは……離れたくなくなっているのだから。


「二人がやっと帰って来たよ!」


 長女の元気な声が出迎えてくれた。

 気づけば美咲と恋人つなぎってのをしていたよ。

 とても気分のいい散歩になったなあ。

 気兼ねない相手が増えてくれたこと、これはとても助かる。

 癒される人はいくらいても困らない。

 これって、恵まれ過ぎだろう。

 オレからではなく、あちらから来てくれただなんてさ。

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