Folge 56 堪能するため

 勉強前のひととき。

 風呂を済ませてリビングにて。

 ホカホカの身体では何もする気が起きない。

 だから風呂上がりはクールダウンの時間をとる。

 隣には一緒に入ったタケルがいる。

 この弟との時間はとにかく平和だ。

 たまに甘々過ぎる時もあるけれど、脳内を空っぽにできるんだ。

 女子率が高めだからなおさらかもしれないな。

 裕二と話す時とも違って警戒する必要がない。

 これって凄くありがたいこと。

 タケルには感謝しているんだ。

 弟でいてくれて感謝しかない。

 冷えたお茶を飲みながらこんな思いにふけている。

 すると次々に女性陣が脱衣所から出始めた。

 トップはツィスカ。


「なあに、兄ちゃん」

「いやあ、綺麗な脚だなあと思って」

「ほんと脚が好きね。勉強終わったら堪能させてあげるからね」


 おー、楽しみだなあ。

 久しぶりだからしっかりと楽しもっと。

 あ、次はカルラだ。


「もう、またじっと見て」

「カルラも脚綺麗だよなあ」

「そう? どうせなら全部見る?」

「今は脚を眺めているんだ」

「へえ。全部見ればいいのに」


 今日が違うだけで、ウチは基本みんなで風呂に入るから、全部見ているし。

 まあ、見られるならいつでも全部見たいが。

 寝る時に見よっかな。


「そんなに妹さんを見ているのもどうかと思いますね」

「だって綺麗じゃない? そりゃ見るでしょ」

「何か違う気がするんですけれど」

「美咲の風呂上りを見ているなんて、学校では口が裂けても言えないな」

「ふふふ。サダメちゃんの特権ですね」


 特権かあ――いい響きだ。

 その特権で最後に咲乃の姿を眺める。


「ボクのが見たいの?」

「咲乃からいつも見せてくるから幸せです」

「今も見せようか?」

「すでに脚を見られて目の保養はバッチリだ」

「遠慮しなくてもいいのに」

「遠慮する間もなく見せてくれるじゃないか」

「えへへ」


 全員がバスタオル一枚巻いただけで出て来たんだが。

 これってワザとか?

 ……ありがたい。


「みんな兄ちゃんの前だと凄いなあ。僕は少し恥ずかしくなる」

「姉ちゃんはまだしも、あっちの姉妹は刺激的過ぎるか」

「そりゃそうだよ。美人のお姉さまが二人もあんな恰好で家をうろついているんだよ?」

「確かに。刺激強いはずなんだよな」

「兄ちゃんが平気なのを見ていると、不思議だもん」

「懐かれている当事者だよ? 毎日のことだから普通になるぞ」

「普通になるものなの?」

「……少なくともオレは普通になっている、な」

「多分ね、兄ちゃんは少数派だと思う。他の人だと平和じゃなくなるんじゃない?」

「ほお。分からないけど、オレが特殊なのか」

「うん、おそらく」


 あの妹二人と初めから一緒にいたから。

 ずっとあの調子で迫ってくるのが基準だ。

 それが普通じゃないと言われても、少数派だとしても、普通は普通だ。

 幸せは崩さないよ。

 そろそろ勉強始めるか。

 普通に妹たちを堪能するために。

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