Folge 57 進まない勉強

「えっと咲乃さあ」

「なに? もっと?」

「も……いや、これ以上はテストが、な」

「少しぐらい大丈夫だって」

「あのな、勉強始める前に助走が必要と言いながら一時間だぞ」

「もっと助走が必要だよ。ほら、ボクをもっと味わっ――ひゃっ!」


 え――何もしていないぞ?

 それがマズいとも言えるけれど。


「ああああ! ちょっと美咲、心臓止まっちゃうよ!」

「咲乃が止めないからでしょ? こうでもしなきゃ冷めないから」


 両腕をたすき掛けの様に上下それぞれから背中へと。

 背中に何かを入れられたのかな。

 もがいている咲乃が可愛く見えてしまうのはどうしたものか。

 助けてあげたいけど、このまま見ていたい気もする。


「サダメー、助けてよー、ひぃ!」


 しっかり眺めたし、いい声も聞こえたから助けようかな。


「んっと、どうすりゃいいんだ?」

「背中から出して!」

「背中ね。でも、Tシャツ捲っていいの?」

「サダメだから頼んでるの! 早くぅ」

「はいはい」


 捲っていいらしい――確認はとった。

 遠慮はいらなくなったのだ。


「おお! 綺麗な背中。でも水でベタベタじゃないか」


 原因になっているモノが目に入って、こっちまでひゃって出そうになった。


「氷か! はい取ったよ。背中を滑りまくっていたみたいだな」

「まだ冷たいよお」


「拭いてやるから、ちょっと待って」


 美咲はニヤニヤしている。

 してやったりって感じだな。


「タオルで拭いて……ふむ」

「早くう」


 背中の水って美味しいのかな。

 味見してみた。


「ひゃ!」


 あ、これは咲乃味になっているのかな、美味しい気がする。

 いよいよヤバみが増してきたな、オレ。


「もお、サダメが楽しんでる。そういうことしなかったのに」

「なんか美味しそうだったからさ」

「美味しいの? なんか恥ずかしいよ」


 背中をマッサージされているようにうつ伏せで恥ずかしがる咲乃。

 身体を冷やしたら可哀そうだから、ちゃんと拭いてあげた。

 拭きながらちょっと色気を感じてしまった。

 何をやっているんだろ。


「はいオッケー。お疲れ様」

「ちょっと美咲! やめてくれる!?」

「サダメちゃんの邪魔をしているからじゃない。姉として、ですよ」


 ぐはっ、勉強しなきゃ。

 何も始めていないじゃないか。


「だめだ、すぐに始める! よし、二人共頼むよ」

「私はずっと待っているのですけれど。待っていた分の何かをください」

「ボクも欲しい!」

「咲乃はずっと相手したでしょ。美咲が求めているのはこれしかないんじゃ……」


 これも珍しくこちらから軽く唇を重ねてみた。

 あちらも何のためらいもなく受け入れたから、正解みたいだ。


「さ、サダメちゃん始めますよ。うふふ」


 ニコニコ顔だけど、真っ赤だ。お互いに照れ臭い。


「ボクもいっぱい教えるからあ、終わったらご褒美欲しいよ」

「勉強終わったら妹と寝るから」

「うう」


 一時間以上も拘束したんだから納得してくれよ。

 その時間中一度も拒否しなかったオレが一番悪いんだけどね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る