Folge 55 テストって、簡単!?

 まるで砕氷船が通過している様だ。

 三人が通過すると、そこにいた生徒達は廊下の左右に避けたままになる。

 そしてただ茫然と立ち尽くし、オレ達を見送っている。

 妙に面白いんだよね、これ。

 避けられているのだからずっと嫌な思いをしていたんだ。

 だけど、オレを理解して好いてくれる二人が一緒にいるようになった。

 見た目は同じでも、気分が違う。

 いや、変わっている所があったな。

 生徒達から感じていたオレに対する嫌悪感が伝わってこない。

 見つめる目も、攻撃から興味になったような気がする。

 試しに少しだけ連中の表情を見てみた。

 眉間にシワを寄せているようなやつは一人もいない。

 声を掛けたそうにしているヤツまでいる。

 それぐらい美乃咲姉妹の存在感が大きいんだな。


「おはようって、また強烈なご登場ですなあ」

「おはよう裕二。そんなに強烈か?」

「お前はどれだけ俺の心を砕けば気が済むんだ?」


 砕いていたのか。

 いつもどうやって砕こうかと悩んでいたのに。

 悩んだ時間を返せよ。


「そう言うわりに、やつれたりしていないじゃないか」

「サダメは見ていて飽きないからなあ」

「ほら。心が砕けた形跡が無い」

「砕けるようになったのは、お二人さんが現れてからだから」


「ん?」

「要するに、モテない同盟を組んでいると思っていたのにモテだしたことで砕けている」


 モテると言っても、この二人だけだぞ。

 それも同じ顔の姉妹だ。まあ、中身は別人だけどね。


「学校でも有名な美人だぞ。みんな美咲ちゃんのことしか知らなかったけど」


 そうなんだよな。

 オレなんて美咲の存在自体知らなかったよ。

 美人で有名なら知ってそうなものだけど、余程関係ない話だと思っていたんだな。

 あと、美咲自身が目立つことを嫌っていたことも要因の一つかも。


「美咲ちゃんから告白したことが大ニュースだったのに、咲乃ちゃんの登場だろ」

「それはオレも少しびっくりしたけど」

「少しかよ。サダメは鈍いのか大物なのかわからん」

「そう言われてもなあ」

「咲乃ちゃんがまたお前と……ああもう、言うのがバカバカしくなった」

「勝手に言い出したんだろ、知るか!」


 こいつ、唯一の味方だと思っていたけど、最大の敵かも知れない。


「そろそろいいかしら?」

「時間が無駄。ボクたちに文句あるなら離れてよ」

「ええっと、いや、文句なんて全然無くてですね、羨ましいなあと」


 姉妹を怒らせちゃってさ。

 サラッとかわせないオレも情けないな。

 反省。


「オレも反省すべき点はあるからさ、二人共そこまで、な?」

「サダメちゃんは何も悪くないじゃない」

「そうだよ、サダメのどこが悪いのさ。妹ちゃんたちと同じように撫でてあげる」


 椅子に座るよう促されて、座ると頭を撫でられた。

 咲乃が凄く嬉しそうなところをみると、撫でたかっただけみたい。


「私はそろそろ行きますね。それじゃ、サダメちゃん」

「はいよ」

「ボクとの時間だね」

「今はテスト対策するんだ。咲乃も教えてくれよ」

「サダメ、がんばるねえ。聞いてくれたら教えるから安心して」

「二人共勉強できるから本当に助かるよお」


 ションボリしていた裕二が話に割って入ってきた。


「勉強? サダメはいつも上位じゃん。今回そんなにヤバいの?」

「まあ、ちょっとな」

「めっずらしい。それならやっとお前を抜けるかもしれないな」

「いつも君は何位でしたっけ?」

「三桁!」

「オレは?」

「一桁!」


 隣で咲乃が笑い転げている。

 こんなストレートな笑いをするようになったんだな。

 そりゃ他の奴らが注目するのは仕方ないよな。


「マズいとは言ってもそこまで落ちる気はしないんだが」

「万が一、という言葉を知っているか」

「万に一つを求めている時点で、お前の目算は怪しさ満点なんだぞ」

「チャンスは自分で切り開くものだ」


 もう、こいつが何を言っているのかわからなくなってきた。

 隣でケラケラ笑っている咲乃を見て癒されよう。

 ……可愛いし、綺麗な子だなあ。

 こうして眺める時はいつも思う。

 こんな子とオレで釣り合いが取れるのか?

 妹ともバランスの悪さを申し訳ないと思っているぐらいなのに。

 なんでオレがいいんだか。

 これと比べたら、テストの方が遥かに簡単だ。

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