Folge 42 圧。

 いいムードになったまま眠りに就いた、オレと美咲。

 美咲をハグしたまま寝ていた。

 夜中に何度か目が覚める。

 目を開けると美咲のうなじが間近にあって、いい匂いがした。

 うなじに鼻の頭を付けたら安心してまた夢の中へ。

 次に起きると細い腕と華奢な背中を妙に感じる。

 思わずギュっと抱きしめる。


「ん」


 少し声が聞こえただけで平和な時間に浸れていることを実感した。

 そのままスヤスヤと夢の中へ戻ってゆく。

 妹二人と寝ている時、それぞれの違いを感じていた。

 それとは別の違いを美乃咲姉妹にも感じる。

 血縁でないのだからなおさらなのだろうか。

 ドキドキすることも多い。

 そんなことを冷静に考えると、とんでもない状況にいることを気付かされる。

 だってさ、同級生の女子だよ。

 それも姉妹。

 ――ありえないよな。

 どちらとも度を超えた付き合い方をしている、よね。

 彼女としての初日がこの状況。

 これを姉妹二人共と。

 オレ、なんで対応できているんだろ。

 もう少し、いや相当気にしなければいけないんじゃないのか?

 でもオレの両腕の中にいる美咲から感じる呼吸。

 合わせて動く背中……。

 離したくない。

 そう思ってしまうことを我慢するべきなのかな。

 美咲はぐっすり眠っている。

 嫌がってなんていない。

 この二人の世界は成立している。

 誰も止める人がいないからダンジョンの奥深くへ進んでしまう。

 自分で踏み留まるとしよう。

 考えていることで美咲を感じられないのが惜し過ぎる。

 まったく。

 こんなに好いてくれたら受け入れるに決まっている。

 オレみたいなヤツをだぞ。

 頭を撫でているとまた眠りに吸い込まれていく。

 何度繰り返しているのか。


「サダメちゃん。――――かわいい」


 頬をツンツンされて目が覚める。

 今度は朝のようだ。

 美咲がオレで遊んでいたらしい。


「おはよ。よく眠れた?」

「何度か起きたけど、気分良く眠れました」

「それなら良かった」

「ギュってされたり、首回りをクンクンされたり、頭も撫でてもらったり……」

「な!? 起きてたのかよ」

「もちろん! あんな素敵な時間を知らないままだなんて心臓が止まってしまうわ」


 うわあ。

 凄く恥ずかしくなってきたぞ。


「幸せだったわ……嬉しくて、もう我慢するのが大変で」


 我慢って……。

 ――――え!?

 いやいやいやいや。


「そ、それは口に出さないでおいてくれると助かる、かな」

「なんで? 私はいつでむごもご」


 これ以上言わないように口を塞いだ。

 女子がそんなことを言うなって。

 オレはそういうの耐性無い!

 妹とは……その……そんな気にもなったことあるけど。

 な、何を思い出しているんだ!?

 美咲のせいだ!


「そういうことを言う子はね」


 必殺、腰揉み!


「きゃーっ! ちょ、それはダメ! ダメだって、あはは! だめ、駄目!」

「二人共おっはよー!」


 あらら。

 いつ入ろうか様子を伺っていたか。


「兄ちゃんの必殺技が出たから来たの」

「来たの。じゃねえよ」


 ツィスカの後ろには言うまでもなく他の三人が付いて来ている。


「サダメはちゃんと初めてを守ったわね。偉いわ」

「カルラさあ、そういう言い方するなよ。なんだか複雑な気分になる」

「誰よりも妹をさい……」

「わーわーわーああああああ!」


 もう、何を言い出しやがる!


「やめなさい、一緒に寝ないぞ!」

「ごめんなさい!」


 二人の妹が揃って即謝った。

 タケルはそれを見ていつも通り一人で楽しんでいる。

 なんだか美乃咲姉妹が増えたけれど、いつも通りなんだな。

 我が家だけども、不思議過ぎる。


「サダメ、ボクのことより美咲が好きになったりしていない?」

「そういう質問を直球で投げるな」

「だってさ、サダメはボクのだもん。離れたらサダメが一番嫌な事するから」

「おいおい。そんな怖い事言うな」


 どいつもこいつも圧が凄過ぎ!

 受け止めるの大変なんだぞ。


「ちゃんと咲乃のこと好きだから」

「ふーん。あたしより?」

「わたしより?」

「僕より?」

「何気にタケルまでノルな! みんな好きだから!」


 ああもう。

 全員がオレに乗っかってきたよ。

 重いんだってば。


「勘弁してくれー!」

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