Folge 41 キス、ハグ、キス

「美咲、なんでそういう頑張り方するの?」

「だって、嫌られたくないから」


 美咲は体中擦りつけてきている。

 そりゃ嬉しいよ。

 嬉しくないわけがないんだけどさ。


「そんな悲壮感漂う表情で必死にされるとオレが悪者に思えてくるんだが」

「サダメちゃんは何も悪くないの。私が悪い子だから。償わなければ」


 償うって。

 そんなに悪い事していないよ?

 確かに恐怖を感じなかったと言えば嘘になるけれど。

 気持ちはひたすらオレへの好意だったわけでしょ。

 嬉しいばかりなのに……。


「ああん、これ以上どうしたら伝わるのかしら」

「あのね、確かに表現の一つではあるんだけど、これしかないわけじゃないぞ」


 ピタっと動きを止めてオレを見る。

 泣きそうじゃないか。

 これ、マジでオレがやらせているみたいで困っちゃうよ。


「涙まで浮かべて……。大丈夫だって、オレ美咲好きだよ?」


 涙だけが動きを止めることが出来ずにオレの頬に一滴落ちる。

 それをオレは親指で拭ってあげた。


「確かに気持ちの伝え方が不器用だとは思うけど――」


 ジッとして、真剣に聞いている。

 いい子なんだよ。

 行動を切り取ってみると驚くことも多いけどさ。

 妹たちがとんでもないアタックしてくるのと変わらない。

 それで慣れているのもあって、気づけばいい子にしか思えていない。


「とても純粋で綺麗な想いだというのはわかるから。安心してくれ」

「さっきの、もう一回言ってくれる?」

「さっきの?」

「サダメちゃんの私への気持ちよ」


 ちゃん付けは定着しているんだな、呼び方はそんなに気にしないけど。

 センスの無い裕二は許せないが。

 えっと、美咲への気持ち、ね。


「好きだよ」

「誰が好きなの?」

「……美咲が好きだよ」


 曇天から快晴に変わった空の様に。

 青信号に変わった時の歩行者の様に。

 自販機の下に百円玉を見つけた時の様に。

 待て――オレもセンス無かったわ。

 まあいい、とにかくだ。

 美咲の表情がすっげえ綺麗になった。

 やっぱ美人だな。


「サダメちゃん、大好きよ!」


 女の子からキスをされることがパターン化していないか!?

 妹以外の子でもこのパターンになるなんて。

 いや、女の子ってこういう風?

 オレ、これしか知らないんだが。


「ああ、好き好き好き好き!」


 んー、止まらない。

 また唇が腫れなきゃいいなあ。


「好きなの! わかって!」

「これだけされていれば、いや、ここまでされなくても十分伝わっているよ?」

「私のことしかわからないようにしちゃう!」


 結局何を言っても止めないんだな。

 こういう時って、抵抗するものなのか?

 でもなあ、嫌なわけじゃないし。

 唇が腫れるのを心配するぐらいで。

 美咲の唇も大丈夫かな。

 男は冷やかされて終わりだけど、女子はマズいんじゃないか?

 美人が台無しになっちまう。


「ち、ちょ、むにゅ、み、むにゅむにゅ、ま……」


 喋れないんだが。

 仕方ない、両手で顔を止める。

 少し離して声を出せるようにさせてもらった。


「このまま続けているとね、唇が腫れちゃうよ」

「そんなの気にしない」

「いや気にしようよ。美人が陰口を叩かれるのは見たくないよ」

「私、美人?」

「相当な美人だと思うし、学校でもそう言われているけど」

「そうなんですか!?」


 嬉しそうな顔しちゃって。

 今まで知らないってどれだけ周りに興味無いんだよ。

 その分、オレへの興味が強烈なのかな。

 なんだか可愛くなってきた。

 止めていた顔を下ろし、片頬を付けるようにする。

 背中へ両腕を回してギュっとハグをした。


「サダメちゃん!?」

「オレからも伝えさせてくれよ」


 ただハグをするだけ。

 でも心臓の鼓動を感じるから、色んな意味で近づけた気がする。


「安心するなあ。とっても癒されているよ」

「照れます」

「いいね、思いっきり照れてよ。それ、可愛いから」

「んもぉ」


 いいぞ、こういう時間が好きだ。

 なんだ、美咲ともこういう時間を作れるじゃないか。

 これでいいんだよ、これで。


「私のサダメちゃん。私の……」

「ミルク飲んだっけ?」

「飲んでませんよ? でも、最初から私のにしたかったから」

「モノ扱いは嫌だぞ」

「わかっているでしょ? 意地悪しないで。私が意地悪しちゃいますよ?」

「ミルク飲んでいない美咲の意地悪なら楽しめるかも」

「サダメちゃんって、マゾだったりして」

「え!? いやいや。好きの表現としての意地悪でだな……」

「わかっていますよー。今のが意地悪ですっ!」


 からのキス。

 初日とは思えない程近づけたな。

 ツィスカの提案は心配しかなかったけど、ありがたいことだったのかも。

 そういえば、あいつらはドアの前にいるのかな。

 勝手に入って来るからそれまでは好きなように二人の時間を満喫だ。

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