Folge 43 双子遊び

 ぞろぞろと。


「あら」


 ぞろぞろと……。


「あのお宅の」

「はい、そうです……」


 ぞろぞろと――。


「いつも賑やかな子たちねえ」

「いつもすみません――」


 登校の朝。

 普通に登校しているだけなのだけどね。

 普通に六人で。

 普通に兄と双子の妹と末っ子の弟と同級生の双子姉妹。

 普通、だ。

 普通、だろ?

 普通、だよ。

 普通に学校に到着。

 そのまま教室にも到着。


「おはようさん」


 裕二か。

 二日ぶりなだけなのに。

 なんだかすっげぇ久しぶりに思える。

 毎週末が濃すぎるんだ。


「おはよ」

「あのさサダメ」

「なんだよ」

「今日はどちらの美乃咲さん?」

「お前、見てわかんねえの?」

「先週聞いているからたぶん美咲ちゃんだとは思っているけど」


 へへ。

 釣れた。


「あらら、可哀そうに。間違えられちゃったぞ」

「サダメは分かるからいいよ」


 美乃咲姉妹はそれぞれのコンコルドクリップを交換し、いつもの位置にはめる。


「え!? えええええ!?」

「一度やってみたかったんだよな」

「サダメがどうしてもって、ね。ボクはまた一緒に歩けて嬉しかったよ」

「私は初日ですから全く嬉しくないのですけど」

「ごめんな美咲。とりあえず終わったし、許してくれよ」

「別に怒ってはいないですよ。サダメちゃんは離しませんから」

「ちょっと。ボ・ク・の、サダメだよ! 美咲はボクに負けたんだよ」

「私が先だったのに。咲乃が……」

「ストップ!」


 これはいけない。

 この二人は何度もこの事で揉めている。

 美咲がオレに告白をした後で咲乃はオレを気に入ってくれた。

 そこから咲乃が明るくなったからと美咲は一歩引いていたんだ。

 美咲が先に想いを伝えてくれたのは確かだ。

 でもそれを乗り越えてきたと感じられるほど咲乃が想いをぶつけてくれた。

 どちらの気持ちも本物で、オレは嬉しいし、感謝しかない。

 そんな二人が勝ち負けとか、そういうレベルで争っては欲しくなかった。


「このことを今後話すのは無しだ! 話したらオレは離れる」


 二人同時に息を呑んだ。

 普段、オレの話は大体スルーされてしまう。

 それは少々気にしている面だけど。

 だが、オレには必殺技がある。

 みんなの元から去るようなことをほのめかすということ。

 これは弟妹にも効果覿面こうかてきめんだ。

 好いてくれている人に使う技だから、オレにもダメージがある。

 オレを好いてくれている人だよ。

 何も無しに去ろうなんて思っていないから。

 ただ、今の様に好きな子が気分悪くなる姿は見たくない。

 だからこれを使っている。


「嫌ッ!」

「ひぃ!」


 うわぁ。

 サンドイッチな上に物凄い力でスクラップにされそう。

 ひぃ、って悲鳴まで聞こえたな。

 この二人にもよく効くようだね。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「ボクもっと愛するから! もっともっと……」

「……苦しい」

「……んなさいごめんなさい、ごめんなさい!」

「……ともっともっと、ごめんなさい!」


 二人同時にササっと離れる。

 これ、面白いな。


「あのう、さあ。要するに、裕二様を騙すためだったと?」

「あんたは黙って!」

「……はい」


 裕二可哀そうに。

 二人はどうも裕二がお気に召さないようで。

 初めから厳しいんだよね。

 そんなに悪い奴じゃないんだけどなあ。

 あれ、そんなに悪い奴?

 そっか、それなりに悪い奴なのか。


「まあ、がんばれや」


 肩をポンポンと叩いて励ましてやった。


「……お・ま・え、帰り道は気を付けろよ」

「それはお前だろ」

「なぜだ!」

「この二人だけじゃなく、途中から弟妹と合流もありえるからな」

「ぬっ。く、靴にツバをかけといてやる」


 わからない奴だな。

 オレに何かあるとさ……。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」

「ボクが怒るとどうなるか教えてあげようか」


 ほら。

 愛が重いとこういうことに。

 なんだかオレが守られてしまうんだけどさ。

 オレが怒る暇も無いというか。


「あ、あの……すみませんでした」


 土下座しちゃったよ。圧に負けたか。

 他の生徒も当然この光景を見ている。

 だけど巻き込まれないようにしているみたい。

 なんだか笑えてくるし、嬉しくもなってきた。

 二人の肩を抱き寄せてから同時に頭を撫でる。

 無性にそうしたくなったのさ。

 可愛いじゃん。


「はわわ」

「ふふ、嬉しいな」


 照れる美咲に喜ぶ咲乃。

 これは妹が双子なおかげで扱いになれているからかな。

 おっと、こんなこと口に出さないようにしないと。

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