第18話 『若気のいたり』
午後5時過ぎ——
『森のげえむ屋さん』の取引先である有名ゲームメーカー『データーポンポコ社』の社長さんが、ぼくらが開発している『ザ・クマさんプロレス』を見学するために会社にお見えになりました。なんでも、売れそうなゲームだったら、データーポンポコ社が販売元になり日本中のゲームセンターに出荷してくれるそうです。
そのタヌキの社長さんは、いかにも社長という感じのかんろくのあるお腹をしていました。でも、目つきがなんとなく相手を見下すような感じで、ぼくの想像したイメージとちょっと違ってました。社長さんの後ろには、やせたカワウソさんがヒョロリと立っていました。どうやら社長さんの部下のようで、いっしょにゲームの見学に来られたようです。
「データーポンポコ社のカネポン社長さんだ」
ファルコン社長はめずらしく緊張しながらそう紹介しました。ぼくは、カネポン社長とファルコン社長は仲良しだときいていたので、きっとカネポン社長もファルコン社長のように新しいタイプのゲームに対して理解のある方だろうなぁ、と期待していました。ところが……
「紹介はいいから、はやくゲームを見せてくれ!」
カネポン社長はぼくらにあいさつもせず、すごくいばった口調でファルコン社長に命令しました。ゼロワンさんがファルコン社長の指示でゲームを立ち上げると、ゲームテーブルのテレビ画面に『ザ・クマさんプロレス』が表示されました。
「ふ〜ん、プロレスねぇ……。プロレスをテレビゲームにしておもしろくなると本気で思ってるのかねぇ。企画者はだれ? 遊び方を説明してくれ」
カネポン社長は、いきなりぼくらの作っているゲームにケチをつけはじめました。ぼくはちょっとカチンときました。他のなかまもムッとした顔をしていました。でも、ファルコン社長だけは相変わらず緊張した表情で額に汗をにじませていました。
ぼくはカネポン社長にゲームの遊び方を説明しました。
「このクマさんレスラーを動かして、敵のレスラーと組み合わせます。そうしたら技のメニューが出ますから、好きな技を3秒内に選択して……」
「なんかイライラするゲームだな!」
ぼくが説明している途中でカネポン社長がまたケチをつけました。ぼくは、またカチンときましたが、グッとがまんして説明を続けようとしました。
「もういいよ!」
いきなりカネポン社長が、ぼくの説明を中断させました。ファルコン社長やみんなはビックリしました。
「もっと期待したのに、なんだこりゃ!? こりゃ売れないな。おまえもそう思うだろ?」
カネポン社長は後ろ立っていた部下のカワウソさんにききました。するとカワウソさんはもの静かな口調で「社長、結論をつけるにはちょっと早すぎますよ。最後まで説明を聞きませんか?」と答えました。
「んなもん、聞いても時間のムダだよ」
カネポン社長のその一言に、ぼくの頭の奥でプチッと何かがキレる音がしました。たしかに、うちにとっては取引先の大切な社長さまかもしれませんが、もうちょっとものの言い方があるんじゃないでしょうか? これが普段のぼくだったらグッとガマンしたでしょうが、ゲーム開発で疲れて『心に
「それに、そのレスラーにかかれている白いドットはいったいなんのつもりだ? 君が描いたのか? ただのゴミにしか見えないぞ」
カネポン社長は、今度はドット絵を描いてくれたミーちゃんの所へ行ってケチをつけ始めました。ぼくはついにキレました! 「プロレスラーの光る汗を表現したかったの」と、少ないドットと色数をやりくりしながら一生懸命工夫してくれたミーちゃんの絵までもバカにしたからです。ぼくは思わずミーちゃんを見ました。ミーちゃんはうつむいていました。
「ちょっとどいてもらえますか! ぼくがその白いドットの意味を説明しますので!」
ぼくは、ミーちゃんの横でふんぞり返っていたカネポン社長をどかそうと、わざと激しく肩をぶつけてやりました。
「な、なんだぁ……?」
今まで社長に逆らう動物は1匹もいなかったのでしょうか。ぼくの予期せぬ反抗的な態度にカネポン社長はまるでハトが豆鉄砲をくらったような驚いた顔をしました。
(あ、しまった! やっちゃった……)
ぼくがとった乱暴な態度に会社のみんなはビックリしているだろうと思いながら、まわりを見まわしてみると、意外や意外。ビックリしていたのはファルコン社長とミーちゃんだけで、ほかの3匹はうつむいてニヤニヤしていたのです。
「まあ、まあ、カネポン社長。だから最後まで説明を聞きましょうって」
興奮して顔を赤くしているカネポン社長の肩を、カワウソさんがなだめるようにポンポンとたたきました。
「う、うむ……。 まぁ、君がそう言うなら……」
ぼくはビックリしました。あんなにいばりまくっていたカネポン社長が、まるで呪文にかけられたかのようにカワウソさんの言う事をすなおにきいたからです。
カワウソさんはカネポン社長にむかってニコリと笑った後、ぼくのそばに歩み寄りこう言いました。
「私はデーターポンポコ社のゲーム開発部長のヌラリンともうします。私、このゲームにとても興味があります。もっとくわしく説明を聞かせていただけますか?」
ヌラリンさんの、そのおだやかなしゃべり方が、凍りついていたファルコン社長とミーちゃんの心を溶かし、そしてぼくの荒々しい気持ちも一気に溶かしてゆきました。と、同時に、冷静になったぼくは、自分がしでかした『ことの重大さ』に絶望的な気持ちになり、どんどんと落ち込んでゆきました。
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