第14話 『新しい遊び方』

「企画書、こんなかんじでいいですか?」


 ぼくは3日かけて書いたプロレスゲームの企画書をモグリンさんに見せました。本当はモグリンさんが書くはずだったのですが、『企画書の書き方の勉強』をかねて、ぼくが書くことになったのです。

 モグリンさんはぼくの企画書に目を通したあと、腕を組んで考え込んでしまいました。


「う〜ん、どうかなぁ。モグ……」

「どこかマズイところでもありますか?」

「遊び方が今までにない新しいタイプだから、ゲームセンターのお客さんに受け入れられるかなぁ、と思ってね」

「どの部分がですか?」


 モグリンさんは企画書の『遊び方』のページを指さしました。


「ここに書いてある『敵レスラーに接触したら自動的に複数の技名が表示され、その中から好きな技を3秒内で選択決定します』というところなんだけど…」

「だめですか?」

「いや、そんなことはないと思うよ。オイラはこういうの好きだから。まるでアドベンチャーゲームの遊び方みたいで」

「アドベンチャーゲーム?  ああ、たまにモグリンさんが仕事さぼってパソコンで遊んでるゲームですね」

「うっ……。そう、そのゲーム」

「どこがアドベンチャーゲームの遊び方みたいなんですか?」

「コマンドを使うところ」

「コマンド?」

「つまり、『話せ』とか『移動しろ』とかいう命令する言葉のことだよ」

「命令……。ああ、なるほど。たしかに言われてみれば、ぼくの考えた遊び方はその『コマンド』というものに、ちょっとにてるかもですね。ボタンやレバーじゃなく、言葉で技をかけるようなもんですから」


 ぼくはしぶい顔をして考え込んでるモグリンさんを見ているうちに、遊び方に対してちょっと自信がなくなってきました。


「コマンドを使ったゲームって、ゲームセンターには向いてませんかね?」


 不安げなぼくの顔を見て、逆にモグリンさんが質問をしてきました。


「ところで、ブブくんはプロレスのどんなところをお客さんに楽しんでほしいの?」

「どんなところ? はい、フンイキです!」ぼくはためらわず答えました。

「フ、フンイキ?」


 変なことを言ったんでしょうか? モグリンさんがビックリした顔をしました。


「ぼくはプロレスが大好きです。まるで格闘のショーみたいで。それで、テレビでやっている『クマさんプロレス』見ながら思ったんですけど、ぼく以外のプロレスファンも、ぼくのようにショーっぽいところを楽しんでるんじゃないかなと。だから、そのフンイキが再現できて遊べるようになれば、プロレス好きのお客さんたちにも受け入れられるんじゃないかなと思ったんです」


「う〜む……」


 モグリンさんは腕を組んでだまりこんでしまいました。


「あの、考え方、まちがってますか?」


 モグリンさんは頭をゆっくりと左右にふりながら答えました。


「いやいや、そんなことはないと思うよ。ブブくんの言っていることはよくわかる。オイラもプロレスファンだからね。実はオイラも、そろそろそんなゲームがアーケードに登場してもいいんじゃないかなとは思ってたんだ。たしかに今までにないタイプのゲームだから営業的に失敗したらこわいけど、オイラはやってみたくなったよ。このプロレス『ごっこ遊び』を。モグッ!」


(『ごっこ遊び』——。 まさにモグリンさんの言うとおりです。ぼくはプロレスの『ごっこ遊び』をお客さんに楽しんでもらいたかったのです)


「いいぞ! ブブくん。そのコンセプトでいってみようぜ。ただ、このシステムはもうちょい、わかりやすくした方がいいな。あと、ここんところも修正した方が――」


 モグリンさんはぼくの企画書の不十分なところ次々と指摘してくれました。その指摘はいつものモグリンさんのような『いいかげんさ』はなく、とても論理的でした。ぼくは、モグリンさんって『だて』に何年も企画をやってきたわけじゃないんだなぁ……と、ちょっと尊敬してしまいました。


 そして、それから数日後――


 モグリンさんが手伝ってくれたおかげで、ついに企画書が完成しました。ぼくが生まれて初めて作ったテレビゲームの企画書です。


 タイトルは——―『ザ・クマさんプロレス』!


「そのまんまじゃん……」


 完成した企画書のタイトルを見ながら、モグリンさんがポツリとつぶやきました。

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