俺ら、スカイランナーズ 九話
人力エアーレースのホームページに大会の説明会が公開されていた。一チーム二人までということで誰が行くかで悩んだが俺と住平になった。彼になったのは来年の事を見据えてだ。
中部工業大学の峰川さんからも説明会があるという連絡をもらった。本当にお世話になりっぱなしで申し訳なくなってくる。
会場にはテレビで見たことがある人が何人もいた。芸能人ではないのだが、すごい人が集まっている場に自分たちもいて緊張してしまう。
もらった資料はルールや番組企画の他、製作についても充実したものだった。比較的小型のグライダーの図面と簡単な制作マニュアルのようなものもあって、ここまで詳しいものが貰えるなら自作グライダー部門に出ても良かったかもしれない。
「こんな資料もらえるんですね」住平が小声で言う。
「思った。去年も説明会だけでも参加したらよかったな」
「こんにちは。説明を始める前に挙手で簡単なアンケートです」説明員の人が切り出した。「今年初めて出場を検討されているチームの方はどれぐらいいますか?」
三分の一ぐらいの人が手を上げた。思っていたよりも多い。
大会のルールや設計に関してのお願いといった話が続く。今までからのルールの変更箇所については特に強調して話していたのが常連チームが大半の大会らしい。
それに番組のコンセプトや今年のテーマの説明もあった。できるだけこれに沿った内容でエントリーしてほしい、ということらしい。ああ、やっぱりテレビなんだなあ、なんて思う。
「以上が今年の人力エアーレースの説明になります。これから十五分程度、質問を受け付けますので何かあれば挙手してください」
いくつかの質問があった。パイロットカメラの取り付けに関する話やプラットホームの話があがった。どうも毎年同じような質問は出ているらしい。面白いのがどこか初出場のチームが今年の芸能人は誰かときいていたが、決まっていないと一蹴されていた。ミーハーな人もいるものだ。
翌日からは作業場で来ている部員で説明会資料の回し読みとエントリー用紙の記入を始めた。
「そういえばチーム名って『城立大学人力飛行機倶楽部』でいいんですか」ずっと黙っていた森が突っ込んできた。
「え?」俺は何も考えていなかったのでちょっとびっくりした。
エントリー用紙に書いていた手が止まる。チーム名は個人的に何も拘りはなかった。他のチームのことも社会人やOBチームだとか、大学に複数チームあるとかでないと大学名で呼んでいる。中部工業大学の人たちもそうだった。
「何か格好いいカタカナの名前つけませんか」続けて森が言う。
「何かいい名前あるのか?」
「そう言われるとないんですが」
「ないか。……他に誰かチーム名の案あるか?」
その場にいる誰もが黙る。
すぐにチームのメーリングリストにも意見を募った。すぐには来ないだろう。
「なあ、スカイウォーカーズはどう?」栗坂がいう。「空を行く人たち、歩く人たち、みたいな」
「流石にそれはアウトだろ」
「ズ、をつけたらセーフになるかも」
「厳しい」
「じゃあ、空を走る人って事でスカイランナーズ、とかだとセーフですかね?」
「栗坂は映画好きなのか?」
「SF映画大好きですよ。最初の機体名はディスカバリーとかエンタープライズがいいです」
「機体名は別に考えよう。個人的になんとかイーグルみたいな名前にしたい」
「戦闘機ですか?」
「いや、ライトイーグルの方から」
「話を戻す。チーム名はスカイランナーズの他に何か意見あるか? 俺はこれでみんなが良ければいいと思ってる」
この場にいる全員が頷くのを確認した。
「じゃあ今いない人用にスカイランナーズで問題ないかメーリス送っておくわ」
「あの、明日ぐらいまでに他に何かいい案あれば連絡していいですか」
「いいぞ、それもメーリスでよろしく」
「はい!」
ただ結局森からも他のメンバーからも新しい案は出なかった。
〈チーム名ですが、スカイランナーズで決定します〉
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