俺ら、スカイランナーズ 八話

 結局中部工業大学には夕方ぐらいまでいて、自分たちの大学に戻ってきた時には夜になってしまったので翌朝に荷降ろしをした。

 一機分の桁をあげるのも、数メートルもある長さのものを入れるのも苦労した。ただそれより心配は主翼が完成したら出せるだろうか。作業場内の長さは問題ないのを確認したが、入り口のことはすっかり忘れていた。それまでに部室を貰えると良いのだが。

 「次は桁試験をすれば良いのか」栗坂が置いた桁を見ながら言う。

 主翼桁に液体を入れたペットボトルを吊るして一Gと一・五Gの重さを加えて桁がその重さに耐えられるかをテストするのが桁試験だ。ここが成功しないと琵琶湖で飛び立った直後に折れてしまう可能性がある。それに早めに大丈夫か見ておかないと駄目だったら桁を買わないといけないかもしれない。

 「一度飛んでるのに大丈夫じゃないんですか?」

 「前飛んだ時に何か起きてるかもしれないから」栗坂が言う。「それに初めて作るんだし必要な事は一通りやっておいた方がいいだろ」

 「そう。なので吊るすためのペットボトルを集めないといけないので各自家で飲み干したやつを捨てずに洗って部室に持ってきて。できれば二リッターのものがいい」

 五〇〇ミリリットルのペットボトルはすぐに集まったが二リッターのものはなかなか集まらない。部室にはミネラルウォーターを箱で買い込んでみんなで飲んでいる。

 栗坂はすでに用意する重量を出してくれていたので番号を書いたテープを貼り、吊り下げられるように紐を括り付ける。そして指定の重さになるように水を入れていく。

 一年生の中からは地味だとか飛行機そのものを作る作業をしたいとか言われたが、それは俺が一番分かっているし、早く飛行機の形にしたい。ただ、安全は他に代えられず、こういった作業も飛行機作りだ、と諫めた。

 桁試験当日。体育館を借りれたのでそこに大きな脚立とアングル材で組み立てた櫓を使って桁を設置した。

 荷重ペットボトルの重量の再確認をして、栗坂の掛け声で順番に桁に吊るしていく。チームを立ち上げてから一番緊張感のある空間となった気がする。

 一Gの荷重は問題なく終わった。

 「一・五Gの試験、始めます」栗坂が指示を出す。

 既に撓っている桁が更に撓っていく様子は設計上問題ないはずと思っていても、怖くもなった。

 「次、最後です。せーので吊り下げてください」

 「はーい」

 「せーの」

 最後の重りが吊り下げられる。

 確認のための間がある。

 この瞬間に壊れることだって有り得るのだ。

 「一・五G、成功です」

 栗坂の淡々としたその声に全体から安堵の息が漏れた。

 俺も安心した。ここで失敗したら設計からやり直しになりかねない。

 「では、今度は外側から、せーの、で順番に外していきます!」再び栗坂の指示が飛ぶ。「せーの!」

 栗坂の声も少し弾んでいる気がする。

 苦労して作業場まで戻し終えて解散した後、俺と栗坂は疲れてそのまま部室で座り込んでしまった。

 「終わったな、全体指示ありがとう」栗坂に声をかける。

 「ああ、やっとひと息つけるわ」

 二人で小さく笑っていると、最後に体育館のチェックをしていた広重が戻ってきた。

 「おつかれー」そういって彼はお茶を持ってきてくれた。

 栗坂はそれを一度に飲み干す。

 「人力チームらしくなってきたな」広重が作業場の窓を見ながら言う。

 「ああ」俺も、栗坂も同じタイミングで言った。

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