俺ら、スカイランナーズ 七話
帰りは俺と栗坂がトラック、広重と一年生全員がミニバンに乗って帰った。
井戸が勢いで言ってきたような提案が多少は功を奏したようでちょっと安心して気分が良い。ただ栗坂はそうでもなさそうだ。
「トラックは行きも帰りも空だな」栗坂が助手席で言う。
「でも、トラックを持ってきた熱意はかいたい、と言われたから持ってきた価値はあった」
「まあ、そうだな」
「何か気になる事があるのか?」
「いや、本当にもらえるのかとちょっと心配で」
「あー……、他のところがすぐに断られた事を思うと信じるしかない。それに湖岸に流れ着いていたのを拾った部材もあるし」
この流れ着いた部材の量もゴミ袋二つ分ぐらいになったのでそれを持って帰るにも二台とも乗用車じゃなくてよかったかもしれない、と前向きには本当に思っている。
「うまくいくと良いな、これから」
「もし譲ってもらえなくても最初からどこからか買う予定だったしな」
「自分たちが作りたい飛行機にするにはそっちの方が良いかもしれないし」
「実際、貰ってからそうなるかもしれん。でも実際に飛んだものがあればそれは勉強にもなる。作業場を見せてもらえて色々きけるんだから声かけてみて良かった」
「ああ……来年はプラットホームにのぼりたいな」
大会一日目に見た琵琶湖の夕焼けが忘れられない。
湖面に真っ直ぐに映る夕日と。
シルエットになるプラットホーム。
徐々にうきあがってくるような星。
今走っている帰路にも星が見えてきた。
「来年の大会は、今日をしみじみと思い出しそう」栗坂が言った。
俺は運転していたので彼がどこを見ていたかは分からない。
中部工業大学人力飛行機プロジェクトチームとはその後とんとん拍子に話が進み、八月のうちに機体の引き取りにいく事になった。ただ貰える桁は今年のものではなく、二年前に大会で数百メートル飛んだ機体のものだった。それでも尾翼や胴体のフレーム、当時の図面までもらえる事になったので十分だと思う。
トラックで俺と栗坂、広重で向かい、実家が近いと言う一年の森も現地で合流した。よその大学構内にトラックで入っていくと言うのはなかなかない経験だと思う。
「遠路はるばるお疲れ様です」峰川さんが出迎えてくれた。
指定された場所は作業場ではなく、過去の機体を収納している倉庫だそうで航空部と共用しているらしい。中にはグライダーが格納されてあり壮観だった。その隅に木製の枠があり人力飛行機や過去の桁が置かれている。
「色んなチームの方に言われます。サークルやクラブではなくて、大学が推進するプロジェクトだからなのはあると思いますけれども、いいところ使わせてもらってます。工具類もちゃんと申請すれば支給されますし」
ところどころ仕切りがあって班や作業内容によって分かれているらしい。隅には靴を脱いで上がれる場所も作られていた。そこにはパソコンや図面を印刷するプロッターもある。他にもパイロット練習用のスペースがあり、リカンベント型のエルゴバイクや冷蔵庫が置かれていた。
「こんな作業場欲しいな」
「部室もらえてもこんな広い場所は絶対ないな、うちの大学」
機体や作業についてはプランクの作り方からフィルムの種類、桁の発注先や扱い方までかなり初歩的なところから質問攻めにして教えてもらった。
おかげで今まで見えていなかった部分がかなりクリアになって、本当に自分たちが来年、プラットホームまで行くのが現実的になってくるような気がした。
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