俺ら、スカイランナーズ 五話
人力飛行機の朝は早い。最初のフライトが朝六時からだ。レンタカーを閉店間際に借りて、夜通し走って彦根には夜明け頃に到着した。
湖岸近くの道路を走って駐車場を探している時、建物の間からプラットホームが見えた。
「すげえ!」車に乗っていた誰もが声を上げる。
俺も実際に人力エアーレースを見に来るのは初めてで水泳場から水面に建てられたその存在感は「会場に来た」という実感を掻き立てる。誰もが一気に眠気が覚めたと思う。
見つけた駐車場から湖岸を歩いていると既に自作グライダー部門の機体が並んでフライトを待っていた。それにタイムアタック部門の一番機はすでにプラットホームに上がっている。
《これより人力エアーレース、2006年大会を開幕いたします》
テレビでも聞いたことがあるアナウンスの声だ。会場から拍手が沸き起こる。俺たちも観客席を目指して歩きながら拍手をした。
《現在、プラットホーム上はタイムアタック部門、科学東京大学手作り鳥の会です》
「思ったより遠いな」栗坂がいう。
「どこが?」
「駐車場から観客席」
またしばらく歩いていた。小さな橋を渡り、もう少しだろうなんて話していた時に大きな歓声が聞こえてプラットホームの方を見る。
「飛んだ!」部員の誰かが言った。
手作り翼の会の機体が飛び出した。
全く危なげがない。安定している。
テレビで観ると当たり前のように思えていたが、実物を見るとあの細い機体が、あれだけ翼をしならせていると不安になってくる。
まっすぐ旋回地点のポールあたりまで飛んでいき、旋回が始まった。
機体が回ろうとしているのもよく見える。
みるみる高度が落ちているが分かる。
見ているこちらも手に汗握る。
ふと、あたりの空気が静かになった気がした。
着水したのだ。
《只今の科学東京大学手作り鳥の会、小河猛さんはコース途中着水のため、記録無しとなりました》アナウンスが会場に響く。
「タイムアタック部門、なんだか残酷ですね」井戸が言う。「あれだけ飛んだのに記録が残らないって」
「そうだな」返す言葉が見つからない。「でも俺たちはロングフライト部門を目指しているからな」
俺たちはあんな飛行機を作ろうとしているんだという実感が改めて湧いてくる。部門は違うが、見ていると色々参考になることもあるだろう。
観客席に俺たちは急いだ。
次のチームの機体はもうプラットホームに上がっている。
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