風は遠くからも吹いて 五話
絵美がクラブを去ってから四ヶ月。彼女の状況は相変わらずで戻れるようになる気配もなかった。平日は授業とバイトで土日になれば実家に戻って母に代わって祖母の介護の日々は変わっていない。
季節遅れの雪が降るかもしれないと天気予報に書いてあった。確かにここまで冷えているのは久しぶりで布団から出る気力がいつも以上に出ない。
スマートフォンがハイテンションな音楽が鳴らした。出来るだけ布団から身を出さないようにしながら電話に出る。
「もしもし?」
「もしもし。ああ、良かった」奏恵の声が聞こえてきた。「おはよう」
「おはよう。どしたん?」
「大会、書類審査通った」
「おめでとう、やったやん!」
「大会だけでも良いから、一緒に行こう」
「……うん、調整してみる」そこで彼女の声は沈んだ。
「待ってるから」
「連絡くれてありがと」
「せっかく機体の部品も作ったんだし」
「そうやけど、そんなん言うんも申し訳ない」
「気にしなくていいよ、来たらプラットホームに上がろうよ」
「……わかった、ありがとう」
「それじゃね」
「じゃあね、バイバイ」
ベッドから重い体を起こして、窓を開ける。空は寒々しい暗い雲が覆っていた。
(なかなかうまくもいかないよね)そんなことを二人して思う。
この夏、彼女は琵琶湖に行けなかった。大会後の連絡も奏恵からもなく、なんとなく嫌な予感がして連絡も取っていない。
結果が「記録なし」と知ったのもテレビ放映だった。
スカイランナーズが写ったのも機体がプラットホームを飛び出すところと着水するところ、それにその瞬間の島崎さんの顔だけだった。
もしかして自分が無理をしてでも残っていれば違う結果があるかもしれないと思うと、辛く、悔しかった。
空が高くなってくる秋口、授業が始まった学内で奏恵は絵美を見つけて声をかけた。軽い立ち話程度であったけれども、大会直前に設計だった柿本と連絡が取れなくなったまま大会に挑んだ事、新機体にはエルロンをつける事、それに来年の大会の目標が「入賞」になった事などを聞いた。
「すごいね、もうついていけないや」
「大丈夫だって、いつ戻ってきても」
「うん、でもまだ今は難しいかな」
「そっか」
「じゃ、行くね」
「またね」
「うん、またね」
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