風は遠くからも吹いて 三話

 《お疲れ様です。

  昨日、祖父が亡くなりました。


  葬儀や片付けなどがあって、しばらくこちらにいないといけないので、大学も休みます。

  クラブもしばらく参加できそうにありません。

  また、戻れる日が分かれば連絡します。


  すみません》


 クラブのメーリングリストに絵美から連絡があった日、九期のメンバーは作業後に残って話していた。ただ言葉は少なく、彼女に対しての不安な思いを全員が取り巻いている。

 「このまま退部にはならないよな」

 江森のその言葉に誰も何も言わなかった。

 「実家とか、行った方がいいんでしょうか」床を見ながら諸節がいう。

 「いや、行っても余計な気を使わせるだけだろ」

 「モロが言うのは絵美が心配だからという意味やろ?」

 「はい」

 さっきからこうやって誰かが何かをぽつりと言っては一言二言の返事があっては黙る、というのを繰り返している。誰かが帰ろうとも言わず、何か言いたいことが皆あるけれども、言葉にならないまま時間が過ぎてゆく。

 「まだ辞めるともそんな話にもなっていないんだから、そこまで考える必要はないと思う」長船が言った。

 今でもすでに遅れている作業スケジュールの中でも一人、部員が抜けてしまうのはチームとして痛手。リーダーの茉莉奈と設計の柿本が言い合いながらスケジュールを組み直していた。手先の器用な彼女がいなくなる事はさらなる作業の遅れを感じさせ、なおのこと辛い状況だった。

 「でも、先輩らもあの感じじゃん」

 「スケジュールはやばいけど、えみちんの事についてこんなふうに話すのはまだ早いんじゃない」

 「うーん」

 また沈黙。

 しばらく誰も話さなかった。

 「あのさ、飯でも行かへん?」清澤がかばんに手をかけ立ち上がる。「どうせ部室も長くおるわけにはいかんし」

 皆もそれに続いたが、その晩御飯でも言葉は少なく、重たい空気は引き摺られたままだった。


 絵美が来なくなってから二週間。ようやく彼女が戻ってくるという連絡が入ってきた。ずっと沈んだままだった空気も少しは軽くなった。

 「お久しぶりです。長いことすみませんでした」久しぶりに作業場に戻ってきた絵美は深々と頭を下げる。

 本当に申し訳なさそうだったので、奏恵やフネが必死に止めるも、普段のギャップの差もあり、キヨや江森は申し訳ないと思いつつも、笑いを堪えていた。

 しばらくは前と同じように活動できていたものの、あのハイテンションな着信音が作業場に時々響いた。最初は笑えたそれも今では絵美が来れなくなる合図のようにも聞こえ、不安にしかならない。実際、しばらくすると彼女は頻繁に実家に戻るようになりまたクラブにはあまり顔を出さなくなっていた。

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