蜻蛉は帰ってこなかった 七話

 これをきっかけに林さんを始めとする時々連絡をしてくるOBも作業に手伝ってくれるようになった。それでもかきもんの求める精度はOBたちも悩ませるレベルで製作スピードは思ったほどあがらず、予定していた四月中旬のロールアウトは間に合わなかった。リベルラの完成は結局、ゴールデンウィーク開けの土曜日となった。でも、結果として入ったばかりの新入生を立ち会わせられたのは良かったかもしれない。

 「綺麗……」

 茉莉奈も、後輩たちも、そして俺もそう言う。

 「あそこまでやってここまで綺麗になるんだ」かなちんが呟いていた。

 今までの機体みたいにぐにゃぐにゃじゃない滑らかな後縁、スッと持ち上がった途中上半のついた主翼。本当に綺麗な機体だ。

 滑走試験も問題は全くなく、今すぐにでも浮き出しそうなぐらいに主翼もしなった。OBも来てくれて、最初からこんなに上手く行く事は初めてと言っていた。大体、翼の嵌め合いに時間がかかってしまったり、駆動系がトラブル起こしたりして初組み立てでそのまま滑走まで出来る事なんて事はなかったらしい。

 翌週。滑走路での初フライト。滑走は問題無かったので初のジャンプ試験になる。 

 右側には江森。

 「右大丈夫ですか?」

 「大丈夫です!」

 左側にはフネ。

 「左いいですか?」

 「大丈夫です」

 後ろにはキヨ。

 「後ろいいですか?」

 「オッケーです!」

 「行きます!」

 「三、二、一」

 しばらく滑走をする。

 漕ぐ。

 漕ぐ。

 浮いた。

 このままもっと飛べる気がした。

 「充分! 降ろせ! 降ろせ!」

 その声にはっとして急いで回転数を落とす。

 車輪が地面につく。

 ごろごろと機体と体に振動が響く。

 「ストップ!」かきもんの声が響いて機体を止める。

 みんなが駆け寄ってきた。

 「どう?」

 「楽しい」

 本当にそうだった。足に負担は確かにかかっているが、それ以上に本当に飛ぶのは楽しい。

 それからのテストフライトも順調そのもの。この日のうちに短距離飛行をやってしまい、次のフライトでは滑走路の半分を、そして三回目のフライトでは滑走路を飛びきってしまった。

 「島崎さあ、どうしてそんなに飛べるんだ?」フライト後のミーティング、かきもんは嬉しそうに悩んでいた。

 「分からない」

 「落ちそうとか、危ないとか感じたことはあるか?」

 「今のところはないなあ。飛んでいるのを下から見てて危なかったしいと思った時はある?」

 「ない。じゃあラストのフライトは旋回入れてみるか。浮いてしばらくしたら右にラダー打って、しばらくしたら左に打って戻す。S字飛行は不安だからまずはC字でやってみようか」

 「了解」

 「これは完走どころか入賞できるかもね」まりなんが立ち上がって言う。「楽しみ」

 「少しだけでも、期待してもいいかもしれない」かきもんが答える。

 その発言にみんながかきもんを見た。他のチームの事情も色々と知っている彼がここまで言うのが珍しかった。それぐらい、今年は良い感じということだろう。

 「ラスト一回、テストフライトもしっかり飛んで終わらせよう」

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