蜻蛉は帰ってこなかった 六話

 「リベルラ」の製作はあまりにも大変だった。かきもんが求める精度が今までとは段違い過ぎて遅れに遅れた。そしてとうとう、九期の女子二人組のうちの一人、えみちんが家庭の事情で退部する事になってしまい、作業ペースは更に落ちてしまった。これも実は作業がきつかったからという話が流れていた。

 「作業きつかったから辞めたとかではない?」

 「無いです。お祖父ちゃん亡くなって家が大変になったからです」

 えみちんとの二人組だったかなちんに聞いてみる。本当は作業が辛いというのであればどうにかしないといけないし、これ以上の退部者は出さないようにしないといけない。

 「まりなんはそう言ってたけど、きついからという噂も聞いたから」

 「そんな事ないです、そんな理由で辞めるなら九期みんなで辞めてます」

 「それもそうか。大変なのは大変だろうけど、きつくて辛いとかあったら言ってくれよ」

 「ありがとうございます」

 聞けば九期のみんなも、まりなんも名前だけでもと随分引き留めようとしたらしい。ただ部費のやり繰りがつかない事もあって辞める事になったという。

 少し不安が取れたこともあってか、その話をしてからは体の調子は少し良くなり、停滞気味だった出力も少しずつまた上がり始めた。ただ、人手不足は分からないのでいくつかの授業を返上して作業やトレーニングをしている。

 いつものサイクリングルートを走っている中、雨に降られて撤収した夜。茉莉奈から電話があった。

 「どうしたんだ?」

 「──届いた」

 「何が?」

 「大会から──」

 こんな雨の中に届いたのだから、あまり期待しない方がいいなと思って黙っていた。

 「大きい封筒。厚みもある」

 「まじか!」

 予想外だった。大きい封筒ということは通ったようなもの。落選したらいつも葉書一枚だけなのだ。

 「明日、みんなで開けよう」

 「そうだな」

 茉莉奈が部員に限らずOBにまで大きい封筒が来た事を連絡したため、部室に入らないほどの人が集まり、まだスペースのある作業場で封筒開封の儀が行われる事になった。

 「では開けます!」そう言って茉莉奈が書類を取り出した。あまりにも入っている量が多くあたふたしてしている。「えー、どれ? これ? あった……読み上げます!『人力エアーレース選手権大会の選考の結果をお知らせ致します。審査の結果、貴殿の機体の出場をここに認めます。必要な書類を同封しておりますので全てご確認の上、一部の書類につきましては、お手数ですがご記入の上ご返送下さい。引き続き、機体製作に励んで下さい』以上です! やったあああああ! やりました!」

 「やったあああああ!」

 「おめでとうおおおおお!」

 大きな歓声が次々に上がる。中でも林さんは感動し過ぎて涙が出ていたし、かきもんも今回ばかりは嬉しそうだった。

 「ちゃんと飛ぶ機体作って、完走するぞ!」かきもんが音頭をとって言う。

 こんなに笑っているかきもんを見るのは久しぶりだ。みんながそんなかきもんの声に応える。

 「おう!」

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