蜻蛉は帰ってこなかった 五話

 結局、同期で残ったのは俺、茉莉奈、そしてかきもんだった。かきもんについては設計に関して口を出すなという条件を出すことで設計をしてくれる事になった。

 この条件については茉莉奈含め他の部員はそれに何も言わなかった。実際、設計でかきもんに敵う人は今のクラブにはいないので仕方ない。でも俺からは「質問や疑問にはちゃんと答えろ」とは伝えた。流石に何もかも全部任せっきりは怖いし、何も知らない機体に乗りたくはない。それでも出来上がった図面には何も文句をつけようがなかった。大会で色んなチームに見せて貰ったエルロンはつけるかどうかをかきもんから相談されたけど、操縦にそこまで自信がなかったのと、かきもん自身もほぼ未知の分野で新しい技術の研究に時間を割くよりは精度よく機体を作りたいという事で今回は載せない事にした。ただ、代わりに主翼を途中から少しだけ上に向ける途中上半が取り入れられていた。これで少しは旋回がしやすくなるはずだ。

 機体名は飛んだ場所に戻ってくるという意味を込めてスペイン語でトンボを意味する「リベルラ」をかきもん自身が提案し、それがそのまま採用された。

 人力エアーレースへの応募書類のうち、図面など機体に関わるところはもちろん、かきもんが全て用意してくれた。一方で書類審査突破の鍵となるチームのアピールとなる書類「空を目指す理由」を書かなくてならない。ここが人力エアーレースの番組がバラエティと言われるところだ。完璧な機体の図面を出してもここが番組受けしないと落とされる事もある。ただ、そのレベルがタイムアタック部門であれば低いといわれている。そもそも完走しないと競技にならないのだが、まず一キロを完走できるチームがまず少ない。なので優秀な機体の図面を出せば通りやすくなるだろう、というのが茉莉奈の目論見だ。

 この書類は俺と茉莉奈で全部仕上げた。理由はもちろん、最初から茉莉奈が言っていた「チーム歴代最強の飛行機とパイロットで初の部門転向で初完走、優勝」。むろん、優勝を狙えるとは思っていないけれども、こう書かないと印象が弱くなってしまう、ということで書いてしまった。そこに文章を考えては足してを繰り返して仕上げた書類一式を大会運営に送った。

 「通るんだろうな?」郵便局からの帰り道、かきもんが茉莉奈に言う。

 「そんなの決めるのは私らじゃないし。でも、今までの中では一番いい書類だと思うよ」

 「言ったな。これで通らなかったらどうする?」

 「それはその時。かきもんは記録飛行したいんでしょ?」

 「速度の記録飛行なあ」

 そこで会話が途切れた。かきもんは思い当たるものを探しているみたいだ。

 「二人とも、ここまで来て睨み合うなよ。もう出場部門を決めて書類まで出したんだし」

 「そういう問題じゃない」二人揃って言われた。

 俺は、どういう問題なんだ、とも、なんだかんだ似てるな、とも言いたくなったが堪えて黙っていた。

 とりあえずは結果が出てからだ。今は飛行機を作って、そしてトレーニングを続けるしか出来ない。

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