蜻蛉は帰ってこなかった 零話
一枚の葉書がテーブルに置いてある。そこには素っ気ない文章がこじんまりと書いてあるが、それがあまりにも重たい現実を突き付けてくる。
《城立大学人力飛行機クラブ スカイランナーズ殿
人力エアーレース選手権大会の選考の結果をお知らせ致します。
多くのチームのお申し込みを頂き、大変心苦しい中ではありますが、貴チームの今年の出場は見合わせて頂く事となりました。
今年の大会は七月二五、二六日に開催となりますので、ぜひご来場下さい。
また次回のお申し込み心よりをお待ちしております。
人力エアーレース選手権大会実行委員会》
葉書が置かれた瞬間に、空耳だったかもしれないが、諦めのような、怒りのような、形容しがたいため息のような音が静かに聞こえた。
今年も駄目だった。
一昨年までの数年間は書類審査に落ち続けていた。今回と同じ。
去年は書類審査に通ったものの、雨が降って部門が中止になった。
「去年は通ってたのに雨で飛べなかったんだから通してくれても良かったんじゃないかよぉ……」
いつになれば、琵琶湖の夏鳥になれるのだろう。
「やっぱり書類かな」
「機体もダイダロス型で普通だからじゃない?」
「でも機体製作も遅れたてたし」
そんな言葉でごまかして。
諦めようとして。
「もうさ、機体は作って滑走路でテストフライトして、それで俺らは終わりにするか」
「パイロットがそんな事言うなよ。悲しくなるだろ」
「仕方ないじゃん。来年に賭けよう」
そういって彼はその場にいた一人の後輩を見た。
彼女はずっと黙ってこの場にいたが視線に気が付いて、応えた。
「……何としても来年は必ず出られるよう、考えます。頑張ります」
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