1-6 月夜と屋台メシ
さっそく温泉旅館の受付でチェックインをする。
旅館だけど、近代的な造りで2月に月夜の誕生日の時に泊まったホテルに似ているな。
高校生の男女の宿泊は本来であればまずいのかもしれないけど、片山さんがいてくれたおかげで何の問題もなかった。
2部屋を予約しており、何の問題もなくチェックインした。
家族風呂の予約もOK.これで明日の朝、のんびりと入れる。
さっそく僕と月夜は部屋を分かれて着替えを行う。同じ部屋でも問題ないんだけど、やっぱり浴衣は着終わった所を見るのが素晴らしいからね。
動画サイトで事前に浴衣の着付け方は練習していたので問題ない。
僕は旅館の玄関口で待っていった。
時刻は18時前。19時から始まるからそろそろ移動したい。地元の花火大会と場所が違うからどこがベストかもよく分からない。
できれば晩ご飯も屋台で食べておきたいところだ。
「お待たせしました~」
「おおー」
月夜は声と共にてってってーと不慣れな草履による歩みを進め、僕に近づく。
明るい黄色をベースとし花柄の紋がいくつも描かれた浴衣であった。
この浴衣ってもしかして……。
「去年の花火大会の時の?」
「はい。九土先輩にお願いして頂いたんです」
去年の地元の夏祭りに着た浴衣か。あの時の月夜は本気でかわいかったよなぁ。
学校中の男子女子が月夜に見惚れて褒めていた記憶がある。
さきほどまでのツーサイドアップではなく、髪も綺麗に結われており、耳やうなじがよく見える。素晴らしい。
「片山さんが結ってくれたんですよ」
「へぇ~。よく似合ってる」
「太陽さんもお似合いですよ。カッコイイ!」
僕が着ている浴衣は今年新調した物だ。鍛えて体が大きくなったということもある。
黒一色の浴衣で、月夜が着ている浴衣に比べたら断然安い。
でも月夜はじっと僕の浴衣姿を見て頬を赤く染めている。やはり僕がイケメンに見える魔法は健在か。
月夜が喜んでくれるなら十分ありだ。
「さぁ、行こうか」
僕は月夜に向け、手を差し出す。
「はい、お願いします」
月夜はその手を握ってくれる。
1年前の花火大会の時のように……。でもあの時とは違う。もう僕達は恋人同士なのだから。
◇◇◇
花火大会の会場へ到着。
かなりの数の人が会場に集まっていた。
地元の自然公園とは違い、海岸線をバックに花火を打ち上げられるようだ。遮蔽物もないから空に一面の花火が見えそうだ。
「太陽さん」
「ん? どうしたの」
「はやく! お腹と背中がくっつきそうです!」
月夜が屋台の方へ引っ張っていく。
お昼も中途半端な時間にバスの中で食べたからな。月夜の空腹は限界だったのだろう。
屋台は道路沿いに立ち並んでいる。花火の場所取りはまぁ無理だし、ギリギリまで屋台で時間を潰すことにしよう。
「月夜、何食べる?」
「えーっと、えーっと!」
三大欲求に忠実な月夜は食べることが大好きだ。
食べ物はたくさんあるし、目移りしちゃうな。
「じゃあ、焼きそば買ってきます。太陽さんはあっちの方で」
「何を買えばいいの?」
「ベビーカステラ100個!」
「やっぱ大食いだなぁ」
腹を満たすための食べ物を買ってきて、近くで座れる所を探した。
月夜は焼きそばにイカ焼き、たこ焼きまで買ってきていた。しかも全ておまけがついている。
かわいい女の子って本当に得だ。
僕の分も買ってきてもらっていたので焼きそばを食べさせてもらう。香ばしいソースとちょっとカリカリの焦げ麺が実に良い。
普段は買ってまで食べないけど、雰囲気の問題かな、祭りだから美味しいというのがある。
「太陽さん、あーんして!」
買ってきたベビーカステラを1つ、月夜の口に入れてあげる。
「適度に甘くておいしー!」
持ってきたカメラでおいしそうに食べる月夜の写真を撮る。これは帰ったらみんなに見せてやろう。
日は完全に沈んでしまったが屋台の光、スマホの光、電灯の光で十二分に明るい。
これだけの人がみんな花火を見るために集まってるのがすごいよなぁ。カメラのシャッターを切って撮っていく。
突如肩を叩かれる。
「太陽さんもあーん」
いつの間にか粉物を全て平らげた月夜はベビーカステラの袋を抱え込んでいた。
その内の1つを僕の口に放りなげる。
ん……まだ作りたてだからうまい。
今度はお返しにカステラを手に月夜の口に入れてあげた。
「ん」
月夜は口の中にカステラを入れずに咥えたままだ。
そのまま目を瞑って口を突き出す。
その意図が分かった僕はまわりをちらちら見た上で月夜の咥えるカステラを咥えた。
「んごっ!」
その瞬間、月夜は片手で僕の頭を掴んで、カステラごと押しつけるようにキスをしてきた。
あまりに強引なキスにむせそうになったが互いに千切れたカステラを口に含みつつ、口づけを続ける。
相変わらず変わったキスを求めるよなぁ。
「カステラキスは難しいですね」
「もうちょっと小さい方がいいな」
「タコヤキ?」
「火傷しそうだ」
「かき氷キスしましょう」
「月夜はほんとキスが好きだよなぁ」
『大変お待たせしました。ただいまから……』
ちょうどいいタイミングで花火大会が始まるようだ。
人の流れがまた変わったな。浜辺の方に出ようか。
月夜があらぬ方向をじっと見ていた。
「月夜、どうしたの?」
「あ、いえ何でもないです」
僕の腕を月夜が掴む。
「太陽さん、行きましょう。花火が楽しみです」
さてと今年は花火と月夜、どっちが綺麗かなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。