1-3 お兄ちゃんは頑固者②
月夜は立ち上がった。
「ば、ば、バカじゃないの!! 最低、信じられない!」
「信じられないと言いたいのは俺の方だ」
星矢は冷静だ。こういう時の星矢を相手にするのはなかなか難しい。
親友ゆえに分かる。こいつは今、何かいろいろと情報を持っている。
「4月入ってすぐだったか、お前達の初めて」
「バラしたんですか」
「いや、その……話の流れで」
月夜に睨まれる。
仕方ないじゃん! 星矢とそういう話になったんだから。親友同士だとついつい余計なことも話しちゃうんだよ。
春休みのある日に僕と月夜は数々の妨害を経て、身も心も結ばれた。
「それは構わん。だが問題はそれからだ。月夜、おまえ最近、服とか本を買わなくなったよな」
月夜はびくっと震える。
「バイトへ行く回数は増えているのに服とか本がまったく更新されない」
あー。
あー。
あー。
「そして4月入るまではあんなに遊園地とかピクニックとか行ってたのに一切なくなったよな」
「そ、そうかな。星矢、気のせいだよ」
見破られてると分かっていながらも助け船を出す。
「だから久しぶりに旅行に行くって言われて少し嬉しかったんだ」
「そ、そうなの! 旅行代金を貯めるために」
「まーホテル代って高校生にはきついからな。分からなくもない」
「そ、そんな何回も行ってないし!」
星矢はスマホを取り出した。
「実は隠れて月夜のスマホに浮気調査アプリを仕込んでいた」
「はぁ!!?」
月夜はスマホを取り出しチェックをするが、分からない。
「九土先輩に相談したからな。プロじゃなきゃ分からんように細工してもらった」
「スマホ捨てる!!」
「つ、月夜落ち着こう!」
「おまえ達が節度ある付き合いをしていればこんなことをしなくてもすんだんだが……」
星矢はスマホを操作する。
「おまえ達図書館で勉強した後、いっつもホテルに行ってるだろ。女遊びの派手な同級生に聞いたら安くて、年齢確認のないホテルらしいな。よく見つけたもんだ」
「いくら兄だからそこまで監視する!? ほんとありえない!」
月夜は激昂するが、星矢は表情を変えない。
僕もそんな女遊びの派手な同級生に聞いたんだよな……。僕は男友達は多いので、結構そのような情報は得ている。
「そして6月後半でホテルへ行く回数はだいぶ減ったな。さては金が尽きたな。たまに互いの家でヤってるようだが」
僕と月夜の体が震える。
「そう思ったら今度は自然公園に行く回数が増えたな」
星矢はスマホから視線を外して、僕の方へ向く。
「おまえら外でヤってるだろ。その性欲の強さに呆れるんだが……」
星矢の言うことその通りだよ。
これは人のせいにしてはいけないんだけど……とにかく月夜の性欲が強いんだ。
本当、付き合ってすぐ行った遊園地の占いで言われたとおりで本気でやばいんです。
女の子の日以外ほぼ確実にホテルいこ、自然公園いこって誘われるんです……。
「別に普通だもん」
「普通じゃないだろ淫乱妹。太陽は惚れた弱みで付き合ってやってんだ。少しは抑えろ淫乱妹」
「んが!」
「毎週月曜日、太陽が全てを搾り取られたような顔して登校してんだぞ。淫乱妹は要求しすぎなんだよ」
「淫乱、淫乱ってお兄ちゃんだって人のこと言えないでしょ! ときどきゴミ箱ティッシュでいっぱいにしてるって知ってるんだから!」
学校でこの兄妹の会話の様はまるで光輝く天界のようだとか言われてんだぞ。
それがこうなってしまうとは……。兄妹の醜い性のケンカはびっくりするほどみっともないな。
「フン、俺はおまえと違って1週間に1日しかせん。1日平均だと1.3回で常人レベルだ」
「くっ!」
月夜は言いくるめられたように渋い顔をする。
……ん?
日平均1.3回で週1回って計算おかしくね? 1日に何回してるの……? この兄妹やっぱ性欲おかしいんじゃねぇか?
「もう1つある」
まだあるのか……。
「6月の3週目の土曜日を覚えているか?」
「びくっ!」
月夜が分かりやすく反応した。あれ……何したっけ。全然覚えてないぞ。
「ほらっ、海ちゃんが気になる男の子を連れてきて、みんなで遊んだあの日ですよ」
ああートリプルデートか。
月夜の幼なじみで同級生である世良海香さんと瓜原木乃莉さん。
世良さんは水泳のスペシャリストで同じく水泳をやっている1つ下の男の子が気になっていて遊びに誘った。
それで2人きりは無理ということで、僕と月夜。そして瓜原さんと遊佐天の3組6人で遊園地デートをその日に行った。
結構楽しかったなぁ。向こうの女の子3人は仲良いけど、男3人はみんな年齢が違うから話すと目新しくて楽しかった。
「それの何の問題があるんだ?」
「遊園地の帰り、各々のカップルはその後どこへ行った」
あ……ここで察した。
月夜は日付で一瞬で理解したっぽい。
「海香と男の子は水泳が好きってことで所属している競泳チームの練習場へ行ったようだ。プロ意識が高いな」
星矢は淡々と事実を述べる。
「木乃莉と天は猫カフェに行ったそうだ。あいつらは相当清い交際をしているな。微笑ましい」
僕と月夜は下を向いたままだ。
「おまえ達は遊園地のラストで観覧車に乗ったそうだな。海香が言ってたぞ。ずっと月夜と太陽がキスしてたって。それから息を荒くした2人が解散を進言したってな」
あー。
あー。
あー。
「おまえ達はどこへ行った? 木乃莉が歓楽街へ消えていったのを見たと聞いたが」
僕と月夜は何も言えない。
あの日すっげー盛り上がったんだよなぁ。
「だから俺はおまえらの青春……いや性春旅行を認めるわけにはいかない。清い旅行とすることだ」
こうなった星矢は頑固だ。
しかし、せっかくの月夜との旅行チャンスだ。無駄にしたくはない。
月夜では星矢を説得は無理だろう。なら僕が月夜の代わりに星矢を説得する。
「星矢」
「なんだ」
「僕が責任を持つ。月夜とこの期間中絶対そういうことをしない」
「太陽さん!?」
僕は月夜に勢いを抑えるよう合図をする。
「誓うよ親友として。だから……月夜と清い、高校生らしい旅行に行くと誓おう。お土産は買ってくるから」
「分かった。友人としておまえを信じよう」
僕と月夜はお互いを見合い、顔を綻ばせる。
「それでおまえ達を監視する人を用意した」
「全然信じてねーじゃねぇか!」
かっこよく決めたのにまったく星矢くんには響いてなかったのであった。
ん? 監視する人?
「おまえ達が全力で我慢するなら俺も覚悟を決める。おまえ達の兄と親友としてな」
「はい?」
「九土先輩に1日無償でデートに付き合う変わりに優秀な監視員を派遣してもらう約束をしたんだ」
「それ全然覚悟になってないよね。むしろご褒美だよね」
美人で金持ちの九土さんと一緒とかみんな渇望モノだろうに。ハーレム男の考えていることはよくわからん。
女選びたい放題すぎて頭おかしくなってんじゃねーか。
「ってかこの流れを予想してたんだな」
「月夜が温泉宿の旅行券を当てたって聞いた瞬間から動いていたからな」
横で唸る月夜。
ま、まぁできなくても楽しい旅行には間違いない。
海水浴、温泉と待ち遠しいことばかりだ。
月夜の肩を優しく触れようと思ったら思いっきり引っ張られた。
「つ、月夜?」
月夜は今日着ているボタンシャツのボタンを次々と外して、シャツを脱ぐ。
白のブラジャーと一緒に成長した胸が露出……。
「えっ!?」
「もういい。太陽さん今からしよ。ここでガンガンやっとく」
「やめろ! コラッ!」
やっぱり神凪兄妹ってすげぇわ。
こうして楽しい旅行に戻るのである。
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