1-3 お兄ちゃんは頑固者①

 僕と月夜は神凪家の居間にあるテーブルに対して横並びで座る。

 対峙するのはこの家の主である神凪星矢……僕の親友でもある。


「2人で呼び出して何の用だ。ついに結婚でもするのか」

「そうなの。お兄ちゃんに認めてほしくて」

「あれぇ? そんな話だっけ? まだ僕17才だから結婚できないって」

「妹の結婚相手は殴るって決めていたんだ」

「殴りたいだけじゃん」


 こんなふざけたやりとりは神凪兄妹との間ではよくあることだ。

 正直な話し、結婚ってのは考えてはいる。やはり社会人2年目くらいで給料の3ヶ月分の婚約指輪を……なんてことをおぼろげに考えている。

 そこまで一緒にいられるかは分からないけど、実質あと5年だ。こんな感じで報告できたらいいなと思う。


「本題に入りたい。星矢、いいかな」


 星矢が腕を組んで僕を見る。


「月夜と一緒に旅行に行きたい。それを認めてほしい」

「ふぅ……、隠さず打ち明けてきたのは褒めてやる。それより、そっちの親は何て言っている。俺よりそっちが重要だろ」


 ああ、ウチの両親か。

 それなら。


「お義父さまもお義母さまも認めてくれたよ!」

「はい?」


 星矢の口から変な声が出る。


「月夜はウチの両親のお気に入りだからな」

「お義母さまから料理を習えて満足だよ! 彗香ちゃんともよく遊びにいくんだ~」


 春休みに恋人の紹介ということで両親に紹介をした。

 母も最初は月夜の可憐さにびっくりしていたけど、料理好きの母と波長が合ったようで時々、僕の家に来て一緒に料理を作っている。

 和食が得意な母と洋食が得意な月夜で工夫をしているようで5人で食事を取ることが増えてきた。


 両親より先に出会っていた妹の彗香も仲良く遊んでいる。最近は同い年で幼なじみの瓜原さんや世良さんも交えて4人で遊ぶことが増えているらしい。

 幼少時の僕の失敗談をベラベラ喋るせいで他の3人がそれを知り、さらにグループ内で拡散され、僕のプライバシーはもはや無いものとなっている。

 これはひどい。


 父はアレだね。月夜みたいな超絶美少女にお酌されてデレデレだよ。これは星矢が僕の家に来た時の母と妹と同じ状態だから何の問題もない。


「今度太陽さんのお祖父様とお祖母様の家へ連れてってくれるの。仲良くしたいなぁ」

「月夜なら大丈夫だよ」


 月夜と僕は談笑する中。星矢は頭を抱える。


「順調に外堀を埋められているな……」

「ん?」

「おまえはもう手遅れかもしれんな。一生月夜から逃げられんぞ」

「何言ってるんだ星矢。月夜と一緒にいられるなら僕は何でもするぞ」

「きゃっ、嬉しい!」


「おまえ達がそれでいいならいいんだが、この女はゴムに穴を開けて男を陥れるタイプだから気をつけろよ」

「なんてこと言うの!?」


 わりとこの兄妹って初めて会った時はシスコン、ブラコンだったけど、最近当たりが両方ともきついよな。

 月夜の髪を撫でてあげると嬉しそうに僕の胸の方に抱きついてきた。そのままもう片方の手で月夜を抱く。

 月夜の体は柔らかくていいなぁ。やばい……盛り上がりそう。


「それで叔父さんには話したのか」

「うん、お兄ちゃんがいいならいいって」


 叔父とは星矢と月夜の保護者の方だ。もちろん血のつながりはある。九州の方で働いていて神凪兄妹に仕送りをしているらしい。

 僕も1度だけ会ったことがあった。優しい印象の男性だったな。


「保護者がOKを出すなら俺は何も言うことはない」

「そうか!」


 僕と月夜は互いを見合う。これで保護者全員認めてくれた、安心して旅行にいける。


「ただし、条件がある」

「え?」「へ?」


 星矢は言った。


「旅行中の一切のセッ○スを禁じる」


 この瞬間、月夜の顔が絶望の色に染まったことを生涯忘れることはないだろう。

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