エピローグ
128 月夜と遊園地①
僕の名前は
だけど1つだけ自慢できることがある。
「あっ! 太陽さん」
恋人が無茶苦茶かわいいということだ。
先週の大告白劇があって数日が経ち、晴れて恋人同士となった僕と
初めての週末ということで練習ではなく本当のデートをしようということでいつもの駅前へ集合した。
2月も下旬にさしかかったがまだまだ寒い。マフラーもコートも手袋も手放せない。
集合時間は10時。今は8時45分。そうだ、僕達はこんなんだった。
栗色の髪がふわりと揺れ、白のコートに身を包んだ月夜が近づいてきた。
今日の月夜も変わらず、美しい。
「おはようございます」
「おはよう月夜。もう早すぎでしょ…‥こんな寒い時期に長い時間待ってちゃダメだよ」
「15分しか待ってないですよ。太陽さんのことだからきっと1時間15分くらい早く来るかなって思って」
うっとりと手を寄せ、月夜は頬を緩める。
僕の行動が読まれている。クリスマスの時は1時間前に来られたから15分早く来たのにさらに15分早く来るとは……。
厚手のコートにマフラー、手袋。しっかり防寒はしてると思うけど、この不毛な集合時間は何とかしよう。
正月明けで遊びに行った時みたいにお互いの家で待ち合わせしたらよかったな。
「じゃあ、集合時間は7時とかにしようか」
「いいですよ」
なんだと!? 月夜も星矢も7時は夜中と言い張ってたじゃないか。未だ、登校時に7時より前に起きたことなんてほとんどないぞ。
「太陽さんとデートの時って楽しみ過ぎて早く目が覚めちゃうんです。愛の力ですかね?」
「ぐふっ」
交際を始めてから月夜の愛情表現が直となった。
好きなど愛など飾らず言ってくる。しかも嬉しそうに言うから心臓に悪い。
どちらにしろ今後はどちらかの家から出発にした方が良さそうだ。
「ちょっと早いけど、次の電車が来るし乗ろうか」
「あ、あの太陽さん」
月夜はもじもじと体を揺らした。言葉を告げず……何か待っているように見える。
鈍感な人間であれば気づかないだろうが。この数か月で神凪月夜というかわいく優しくて完璧な美少女とずっと接していた僕は何を求めているのかすぐ分かった。
月夜の後頭部に触れて軽く抱き寄せる。栗色の髪は相変わらずさらさらだ。髪の量が多くて心地よい。ってそこじゃない。
「月夜、今日もかわいいよ」
「ふへへ……」
月夜は満足そうに顔がとろけてしまった。かわいい、綺麗って言われたいって知っているからね。
自分で言っててアレだが相当に恥ずかしい。
月夜以外には絶対聞かれたくないフレーズであった。
◇◇◇
県外の大型遊園地。今日僕達が向かっている目的地だ。
最寄り駅からおおよそ40分くらい。電車は混雑していないが、僕達は立ちながら談笑する。
「そうなんですよ。海ちゃんたら。太陽さんも今度言ってあげてください」
「あははは。そうだ、月夜」
「はい?」
「僕達、その恋人同士だし……敬語じゃなくてもいいんだよ。学校は駄目だけどね」
「へ?」
抜けたような声を月夜は出す。
僕と月夜が交際していることを知っているのはいつものグループメンバーと下級生の
月夜はバラしてもいいと言っているがバラすと僕が
未だに月夜人気は加熱したままだからね。4月に入ると1年生も入ってくることになるし。
しかし、月夜は交際してるのに誰かに告白されるのは嫌ということで
学校中大騒ぎとなって、誰だ誰だと……噂が噂を呼ぶが月夜はこんな風に自分の好きな人の評を広めるのだ。
「私の好きな人は性格が良くて、目が綺麗、そして鼻が高くて…‥顔がとってもかっこいい、とっても体付きがよくて、リーダーシップもあって、いつも話題の中心、足もとっても速くて……私にとって王子様みたいな人」
月夜は嘘は言っていない。そしてそこから僕に到達することは間違いなくなかった。グループ全員、誰の事!? って言っていたからね。傷つくわぁ。
だけど、念には念だね。どっかで解決したいけど、最悪は僕の卒業まで待つしかないかな。学校にさえいなくなれば影響はない。
「そっか、そうですよね。恋人同士だから対等だし」
「月夜の呼びやすい呼び方でいいんだよ」
「…‥じゃあ……太陽くん?」
「あ、水里さんっぽい」
「は?」
月夜が真顔となり、眼のハイライトが消えたような気がする。
これは元々知っていたが月夜は相当に嫉妬深い。2人でイチャイチャしてる時に他の女の名前を呼ぶとすごく機嫌が悪くなる。
倍甘やかすと機嫌がよくなるのだが……これはめんどくさい。そのかわり、月夜は僕の前で他の男の名を絶対言わない。星矢ですらアレとか兄とかで形容する。それはかわいそすぎるよ!
「ごほん、気にしないでくれ」
「……くんは止めましょう。だったら……そ、その太陽とか」
「その顔で言われると星矢に言われたみたいだな」
「デート中に他の女と兄の名を出さないでください!」
「女は分かるが兄の名はおかしい」
どうにも月夜は最近は星矢に対しても嫉妬心があるようだ。
「だって、木乃莉が……。ほら【太陽の兵士と星の王子の恋物語】のNO.4でサンとムーンが今回の話で交際したじゃないですか」
「初耳なんだけど!? いつのまにNO.4まで出来たの!?」
弓崎さんと瓜原さんが作る♂と♂の恋愛小説だ。太陽の国の兵士であるサンは僕、星の国の王子スターロは星矢、星の姫(♂)ムーンは月夜をモチーフにしている。
僕達のリアルの関係を完全にトレースしてるんだけど訴えられないかな。
「それで木乃莉が…‥酔ったサンが実は兄弟のムーンとスターロを見間違えてキスするシーンを作るって! だから私と間違えてアレにキスするかもって」
「ねぇよ」
ないと断言できる。それだけは言える。
「アレに太陽さんを盗られるかもって思うと心配で……。他の女の子は何の心配もしてないんですけど」
「そっちの浮気の心配しないでよ。いくら似てるからって女と男を間違えないから。それに」
僕は月夜の頭をゆっくりと撫でる。
「僕がキスをするのは月夜だけだ。それ以外は必要ない」
「~~~~~~っ!」
月夜は嬉しそうに身を竦めた。お気に召してくれたようだ。今度、この件を星矢と相談するか……あ、こういうのも嫉妬されるのかな。
遊園地の最寄り駅までもう少しかかりそうだ。
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