129 月夜と遊園地②
「しばらくは太陽さんで。そっちの方が慣れてるので……丁寧語は高校生の内はそのままにさせてください」
「そこは月夜の望む形で構わないよ」
最寄り駅へ到着し、僕と月夜は電車を降りる。改札口を過ぎると……月夜に思いっきり手を引っ張られた。
「あの月夜さん?」
「もう、無理です。限界です」
誰も入ってこないような建物の影に僕と月夜は移動した。
月夜と交際してから分かったことがある。月夜は非常に強い病にかかっていた。そう恋の病だ。
身長差があるので少しだけ屈んであげる。すると即座に月夜は僕の唇に唇を重ねた。
呼吸のタイミングだけ離れて……また月夜はキスをしてくる。唇が腫れてしまうかと思うくらい……キスを重ねた。
「太陽さんの唇……ほんとすきぃ。やみつきになるの」
月夜と交際してからすでに50回以上キスをしている。
月夜はキス魔であった。1時間、いや30分に1回はキスをして欲しがる。駅前では電車が発進しそうだったこと。電車内は、公共交通機関内は禁止と僕が言ったため我慢していたのだ。
1時間以上キスを我慢したことで月夜は限界だったのだろう。何度も何度もキスをしてきた。
僕の唇って何か魔法でもかかってんのかな。だいぶ口臭に気を遣うようになったし、1日3,4回歯磨きするようになったけど。
「満足です!」
「もはや依存症になってないか」
僕はキスに対して普通だが……その変わりといってはなんだが月夜を抱くのが好きなんだ。
服を着ているから体温とかは分からないんだが、月夜はちょうどいいくらいの体のサイズで抱き心地がいいのなんの。
たまに月夜のかわいい顔をじっと見て、月夜を照れさせるともうなんていうか興奮する。
興奮で高ぶった状態で最高の手触りの栗色の髪を思う存分触るとイキかけましたになる。
「はぁ満足だ」
「太陽さんも依存症ですよね。30分も髪触られるんだから……私の心はもう無ですよ」
月夜は回数。僕は時間。いいカップルじゃないか。お互いがお互いを求めているということだね。
僕は最後にもう一度、月夜を抱きしめて、僕から月夜の唇にキスをする。
「月夜、愛してるよ」
「私も……です」
悪いけど……互いに相手を好きだった時間は僕の方が圧倒的に長いんだ。その時間の分だけ求めさせてもらう。
◇◇◇
ここの遊園地は特にアトラクションが豊富である。
遊びがメインと言ってもいいかもしれない。本当は夢の国とか行ってみたいんだけどお互い高校生の身、金銭に限界があるよね。
チケットを購入して、さっそく中に入る。集合時間が早かったが結局駅前の隅で1時間ほどイチャついたおかげでうまく時間の調整ができた。
仕方ないじゃん、初めての彼女なんだから。まだ付き合って1週間経ってないんだよ。愛が暴発したっておかしくない。
「もう堂々できますからね~」
月夜は堂々と僕の片腕にしがみついた。初めて腕を掴まれた時、月夜はすぐ真っ赤っかになっていたが、もはやそんなこともない。
心底嬉しそうに僕の腕に頬をすりつける。恋人繋ぎとかもしてみたいんだけどなぁ。まぁいいか。
「何から乗ろうか。月夜は絶叫系いけるの?」
「えー、怖いかもしれません。泣いちゃうかも……。泣いたら慰めてくれますか」
この感じは絶対いける系の演技だな。スノボの時に見事騙されてしまった僕はもう信じないぞ。
慰めつつちょっとしたボディタッチもありかもしれないなぁ。それを期待しよう。
僕も絶叫系は得意な方だし、さっそく楽しむとしよう。
この遊園地が誇る三大絶叫マシーン。3つともジェットコースターだ。
凄まじい速度で進むジェットコースター、高低差が凄まじい肝が冷えてしまうジェットコースター、常時回転しながら突き進むジェットコースター。
目玉だけあって、圧倒的スケールだったけどそれぞれ1回ずつ乗って満足した。
3か所とも周った僕達は感想を言い合う。
「太陽さん、すんごい楽しかったですね!」
「怖いかもしれません……じゃなかったのかよ」
「あっ」
素で演技を忘れていたようだ。
慰めてもらう魂胆だったのにね。思い出して月夜は少し恥ずかしそうに顔を背けた。
なるほど、こういう時もあるのか。こっちの方向性は考えてなかったや。
「じゃあ待ち時間も含めて、ちょっと疲れちゃったね。食事にしようか」
「は~い」
今日は遊園地ということもあり、月夜のお弁当はなしだ。
せっかく2人で遊びに来ているのに寂しいな。
「どうしたんですか?」
「月夜のお弁当が恋しくなったかな」
「そうですか。じゃあ、春になったらまた
「そうなんだ。ふふ、2人でいろんなところにいっぱい行こうか」
「はい!」
月夜は穏やかに微笑む。いい笑顔だ……。この笑顔をずっと守っていきたい。
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