127 やっと言えました!

『いやったああああああああああああああああ!』


 ぬなっ!?

 いきなり林の木陰から大勢の女性生徒達が声を上げて飛び出してきた。

 みんな……覗いてたのか。


「うぅ……月夜ちゃん、太陽くん、おめでとおおおおお! よかったよぅおおおおお」

「ちょ、水里泣きすぎ! でも……本当によかったよ」


 ボロ泣きしている水里さんに寄り添う北条さん、彼女も目尻に少し涙が出ているように見える。

 まったく情に厚い人達だ……。もう。


「月夜おめでとーー! やったね、やったね!」

「本当によかった。海ちゃんも私も心配してたんから」

「ありがとう、海ちゃん、木乃莉。ずっと話を聞いてくれたおかげだよ」


 月夜の側には世良さんと瓜原さんが駆け寄る。幼なじみ3人組として喜びを分かち合っている。


「おめでとうございます、山田さん」

「太陽くん、ようやく君も一人前だな」

「ったく遅すぎんのよ。9月にはこの関係になれてたでしょ」


 落ち着いた様子で声かけてくれるのは弓崎さん、九土さん、ひーちゃんだ。

 僕がもうちょっと自分に自信を持てていたらここまで寄り道せずにすんだんだろうな。

 そして遠くからのんびりと近づいてくるのが神凪星矢。

 僕は側に寄ってくれた3人から離れて星矢へ向かって歩く。

 星矢との距離がごく近くなった時に互いに片手を振り上げて、手のひらで叩き合った。


「兄だからな。おめでとうは言わんぞ」

「ったく素直に褒めてくれよ」


 他の8人が穏やかな目で僕と星矢を見てくれる。

 このグループは男が少ないからね。もう少し男子率をアップさせるべきだと思う。


「このグループで最初にカップルが誕生するなんてね~」


 水里さんにカップルと言われ、月夜はほんのりと頬を紅く染める。

 そんな初々しい可愛らしさに僕も顔が熱くなる。


「おやおや、いきなりラブラブですかぁ」


 お騒がせ女め、こうやっていじってくるんだよな。

 後ろから星矢の声がした。


「節度ある付き合いをすることだな」


 僕は振り向いてちょっと高めの声を作る。


「分かったよお兄ちゃん」

「鳥肌立つからそれだけはやめろ」


 僕は笑い、星矢も笑い、月夜も笑う。

 そして……誰も不幸にならない喜びをみんなで笑い合いたい。

 ……これがハッピーエンドなんだな。さてと……僕と月夜はケリがついた。


「じゃあ、次は星矢だな」

「は?」


 すっとぼけた声と共に月夜と世良さんを除いた女性陣の目が光る。


「言ってたじゃないか。来年の3月に決着をつけるって、君はこの娘達の中から選ぶんだろ」


 僕の言葉に全員が集まってきた。


「星矢くん、ほんと!? ちょ、それ……詳しく」


 水里さんは困惑しつつも嬉しそうに詰め寄った。


「神凪、それほんと?」


 北条さんはまるで乙女のように側による。


「神凪さん、私は……負けたくないです」


 弓崎さんもぐっと顔を近づける。


「星矢、今度こそ君を振り向かせよう」


 九土さんが腕を組みつつも一歩近づく。


「星矢さん、私にもチャンスはありますか? なんてね」


 瓜原さんが少し笑みを浮かべて近づく


「せーちゃん! ひーちゃんを絶対選んでね!」


 勢いそのまま、ひーちゃんは飛びついた。


 そして6人の女性に詰め寄られる星矢はまだ冬なのに額から汗を流し、気まずそうに顔を背けて……。


「バイトがあるから、帰る」


 逃げた。


「おー星矢先輩待てー! 追いかけろー!」


 野次馬根性の世良さんの声と共に女性陣がみな、逃げ出した星矢の後を追っていったのだ。

 ふふふ、星矢は誰を射止めるんだろうね。


「太陽さん……」


 この場に残されたのは僕と月夜だけだ。月夜はゆったりと僕に近づく。


「私達…‥その……彼氏彼女、恋人、交際……でいいんですよね?」

「そ、そうだね」


 僕に彼女が出来てしまったのか。それが何というか神がかった可愛さを持つ女の子だ。

 絶対大切にしなきゃ。今後の人生で月夜以上の女の子なんて絶対現れないだろうし。

 そんなことを考えていたら月夜は僕の両手を握った。今は手袋をしていないので素肌が触れ合う。


「恋人だから手を繋いでもいいんですよね!」

「あ、ああ」

「太陽さんの手……温かくて好きぃ」

「月夜の手は柔らかくて好きだよ」


 月夜は正面に来て、僕達は手を握り合う。こうやって堂々と触れるようになるというわけか。

 これはかなり嬉しいなぁ。すると月夜は手を外し、僕の胸に飛び込んできた。


「恋人だから……抱き合ってもいいんですよね」

「お、おお」

「太陽さん……もっとぎゅっとしてぇ」


 僕と月夜は互いに抱き合った。150センチ後半の月夜の体は175センチある僕の体にすっぽりと埋まる。

 月夜の体が制服越しだけど柔らかくて……体が熱を盛っているように感じる。栗色の髪が目前に広がり、僕は強く抱きしめる。

 ずっとこうしたかった。触れ合いたかった。堂々と抱き合いたかった。もう遮るものなんてない。

 おかしくなりそうなくらい嬉しい。


 月夜は首を動かして、ずっと見ていたいほど整った顔立ちを僕に見せつける。ああ、かわいいなぁ。あまりのかわいさにまた見惚れてしまった。

 月夜の瞳と僕の瞳がまっすぐ見つめ合う。


「……」

「え?」


 すると月夜の唇がすっと動いた。あまりに小声過ぎて全然聞こえない。聞き取るために僕は屈んだ。

 月夜はいきなり、両手を僕の首の後ろに添えて前に押し出そうとする。屈んだ隙をつかれたようだ。

 月夜はその美麗な顔を押し付けようと僕の顔と急接近する。…‥月夜は目を瞑った。そしてそのまま……潤った月夜の唇を僕の唇に押し付けた。


 初めてのキス。


 大好きな人とのキス。


 衝撃と困惑で……初めてのキスの味は分からない。ただ唇をくっつけただけなのだから。

 なのにどうしてこんなに愛しく感じてしまうのだろう。

 十数秒のキスの後、月夜は唇を離して…‥月夜の両手は再び僕の手を掴む。


「恋人だから、キスしてもいいですよね」


 真っ赤な顔をする月夜がとても愛おしかった。

 だけど、僕自身照れと恥ずかしさでいっぱいで答えてあげることができない。

 月夜は手を離して…‥少しだけ後ろに下がる。そのまま体をくるりと回転させた。

 僕が誕生日にプレゼントした黄緑色のマフラーがふわりとゆれる。


 愛しいほど柔らかな笑顔で……目じりにはさきほどの涙の跡があり……でも幸せいっぱいに見えるそんな月夜。

 月夜の口が開く。


「太陽さん……大好きです」


 ああ、ほんとに綺麗だった。


「大好きってやっと言えました!」



次回 エピローグとなります。

※本話には挿絵を設定しておりました。詳しくは近況ノートをご確認ください。

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