125 月夜から太陽へ

あのバレンタインデーの告白劇から日は流れて、月曜日となる。

あっという間に時間は流れていつも通りの授業を終えて、時間は放課後となった。

僕は人通りの無い、校舎裏にある林のさらに奥で神凪月夜かみなぎつきよ待ち続ける。


来てくれるだろうか。月夜に対してあのバレンタインデーの晩、水里さん、そして世良さん、瓜原さんが付き添ったらしい。

土曜日、日曜日と女の子同士でいろいろ話をしたと水里さんから連絡があった。そして月曜日の件も了承してくれた。


日が少し落ち始めた頃……この場に近づいてくる足音が聞こえた。

栗色の髪、ぱっちりとした二重の瞳に、目鼻唇全てが整った顔立ち、恒宙こうちゅう学園の冬服と一緒に僕がこの前贈った黄緑色のマフラーを巻いてくれている。

今日の登校を僕は別で行かせてもらったため月夜とは1日半ぶりくらいに会う。でも何だか少し……久しぶりだ。


月夜は僕の表情を伺うように恐る恐る近づく、水里さんが言っていたが無茶苦茶暴言を吐いて傷つけたと思われているらしい。

僕としてかなり嬉しかったんだけど……月夜の立場だと仕方ないか。先に言葉をかけよう。


「来てくれてありがとう」


目を1度見開いて、月夜はコクンと頷く。ああ、今日もやっぱりかわいい。

僕は月夜に向かって歩いて近づく。


「太陽さん、ごめんなさい!」


その言葉に僕は歩みを止める。


「あの時は……その……気持ちは高ぶって、あんなこと言うつもりはなくて……ごめんなさい!」


月夜は少し混乱しつつ、言葉を続ける。


「そ、その私は今まで通りで構わないので」

「月夜」


僕は月夜の言葉を遮る。僕は大きな過ちをし出かしてしまった。現状維持なんて甘い言葉でしなくてもいい我慢を押し付けてしまった。

今まで通りのままではいけない。


「あのバレンタインデーで僕に伝えてくれたあの想いは嘘だったの?」

「っ!」


月夜の目が開く。


「違います! あれは……私の想い……です」


それが聞ければいい。

でも……くそ、手足が振える。緊張してるんだろうな……。こんな場は初めてだし、平静を装うのも大変だ。

僕を1度息を吐く。


「僕はずっと逃げてきた。だから今度こそ君と本気で向き合いたい」


他でもない月夜のために、そして自分のために。

性格はすぐには変えられないけど、胸の中から今にも出てきそうな気持ちを解放したい。

月夜は先に口を開いた。


「なら……、やり直しをさせてください」

「え?」

「あの誕生日の夜、『だからあなたにこの気持ち、全部口にして伝えます』って言いましたよね。バレンタインデーの時に伝えていません」


月夜は微笑んだ。


「私の想いをちゃんと伝えさせてください」


あの時、充分想いを解き放っていた気もするけど、本来言いたいことがあったのかもしれない。先に言うつもりだったけど、仕方ない。

月夜はぐっと僕に近づいた。本当に1m……いやそれよりも近い。月夜の顔が近いだけで何だか照れてくる。慣れたと思っていたのに。

月夜は両手を胸にあてた。


「この想いを自覚したのはあの……7月下旬の事件の直後、太陽さんのお見舞いに行ったあの時です。私はあそこで初恋をしました。他でもないあなたに」

「んぐっ」


月夜は薄く目を開き、思い出に浸るような綺麗な声で僕に語り掛ける。僕が初恋の相手だと言われ、顔が熱くなり、胸が鳴りやまない。

初恋の対象が僕であることに驚きを隠せない。

そのまま月夜は少しずつ語り始めた。


「何度も何度もアピールしたのに、太陽さん逃げてばっかりで……でもあなたと話ができる日々がとても嬉しかった」


「スーパーで私の料理を好きって言ってくれた時、飼い犬の太郎ちゃんを抱いた私をかわいいと言ってくれた時、図書館で太陽さんと趣味が一緒であることの素晴らしさが分かった時、雨のバス停で貸してくれた上着がとても暖かった時」


「満員電車で守ってくれた時、カメラで写った私が綺麗だって言ってくれた時、初めて食べ合いをした時、ナンパされた私を助けてくれた時、ゲームセンターで私を月夜って呼んでくれた時、私を特別な異性って言ってくれた時」


「その1つ、1つが私の初恋を育ててくれたんです。一緒に登校して、一緒にご飯を食べて、一緒に部活をして、一緒にデートをして、一緒に夏祭りを見る」


「学園祭も体育祭もクリスマスも誕生日も……太陽さんに会うたびに私は太陽さんに惹かれていきました」


月夜はあの時のように……7月下旬のあの月の光が照らすあの浜辺で見た時のようなとても愛らしい笑顔を浮かべた。


「私はもう太陽さん無しではだめなんです。好きです。私は……太陽さんが世界の誰よりも好きです」


その屈託のない思い切った愛情表現に僕は……。


「おおおおお!」

「へっ?」


へたり込むしかなかった。

告白されたことない凡人にそれほどの愛を向けられて、全部抱え込むことができるはずもない。

僕は両手で顔を隠して悶える。


何分か経ち……ようやく落ち着いてきた。立ち上がって、月夜に向き合う。


「顔、真っ赤ですよ」

「これでもだいぶ落ち着いた方なんだけどね…‥‥」


まだ心臓がやばい。血圧200を大きく超えてるんじゃないか? ああ、もう……嬉しい。


「あの、その……この先を望みたい気持ちはあるんですけど、太陽さんに迷惑をかけたくないっていうか……」


あれだけ堂々と告白しておきながら急に月夜はもじもじし始めた。バレンタインデーの時はすごかったのにな。

月夜は本気の想いを伝えてくれた。


女の子から告白させてはい終わりです、なんて言わない。

次は僕の番だ。

その想いを超えてやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る