119 あの夏の思い出②

「う……うーん」

「気がついた?」


 妹ちゃんが目を覚ました。

 ばっと立ち上がり、周囲を見渡している。


「太陽さん……? わ、私……ここは」

「ここは多分島の東側エリアの砂浜だ。未開拓地だね」


 よく分かってない顔をする妹ちゃん。整った顔立ちのこの子が首を傾げた姿はやっぱりかわいいなぁ。

 くっ、体が痛い。

 僕は妹ちゃんに状況を説明した。

 土砂崩れで僕と妹ちゃんが巻き込まれて、その衝撃で崖下に落ちてしまったこと。

 2人とも気を失ったけど、先に起きた僕は森林の中にいるのが不安だったので彼女を抱えて先へ進んだ。

 雨も上がったのでひらけたこの浜に辿りついたのだ。


「そうだったんですか。助けてくれてありがとうございます」

「僕も巻き込まれたタチだから……ちょっと違うような気もするけど」

「太陽さん、ケガしてませんか? 手足かなり擦り傷だらけです。 私は全然傷ついてないのに」

「日頃の行いの差かな。大した傷じゃない」


 庇ったことは妹ちゃんには言わない。不安にさせてしまうし、その綺麗な素肌を傷つけさせなかったことに僕は満足しているからだ。

 彼女を庇った時に被せた上着は取り戻している。背中や腹部がさっきから物凄くズキズキしているけど上着をしっかり着ていればバレることもない。


「医療用具持ってれば……」

「そこの川の水で洗ったから大丈夫だよ」


 妹ちゃんは申し訳なさそうに僕の手足を見ていた。大けがではないから問題ないと思う。

 夕日が見えるから恐らく18時から19時の間かな。

 もちろん、火などあるわけもない。完全に暗くなったら終わりだよな。

 天気も決してよくはない。雨が降らないことを祈るしかないな。


「よし!」

「妹ちゃん?」

「お兄ちゃんや九土先輩が助けを呼んでくれていると思います。私達にできることをしましょう」


 妹ちゃんはあたりを散策し始める。


「道具はないから魚は無理ですし、植物を探しましょう」


 さすが星矢の妹、こういう時は便りになるな。


 正直不安でいっぱいだ。妹ちゃんを助け出したとはいえ、ここには人がいない。

 おそらく星矢達が救援を要請してるだろう。空の向こうは曇空が広がっている。雨が降ってくるのかもしれないな。その中で本土から助けが来るのは時間がかかるはず。下手したら2日ほどこのままの可能性がある。

 夏だから雨さえ凌げれば。でもなぁ。


 僕と妹ちゃんはあたりを散策、日が落ちる前に何とか食べ物が見つかればベストだ。

 2人で探して、木の上に生っているヤマモモを見つけた。確か食べられたはずだ。……運がいい。

 高い所にあるため、気をつけて木を登り、そのヤマモモを取った。ん? 向こうに何か洞穴みたいなのがあるな。


「太陽さん、日が暮れると降りられなくなりますよ!」


 そうだ、それはまずい。

 木を降りて、僕達は浜辺に戻ってきた。光がない僕達には月の光が唯一の灯りだ。

 僕と妹ちゃんは採取したヤマモモを食べてみる


「甘い!」

「初めて食べるけどいけるじゃないか」


 生食はいけるはず。腹壊す可能性もあるけど……そう言ってはいられない。

 お互い、上着にペットボトルの飲み物を入れていたから水分も何とかなるはずだ。助けが来るまで何とかなりそうだ。


「くしゅん」

「大丈夫? そういえば何回かくしゃみしてたよね」

「ちょっと冷えたのかもしれません。パーカーがあるから大丈夫ですよ」


 妹ちゃんは開かれていたパーカーのチャックを上げる。

 ち、水着が見れなくなってしまった。

 しかし……こうやって2人きりとなると緊張するな。2人でこうやって会話したことって1度もないんだよな。何を話せばいいんだろう。


 無言のまま時が経つ。


「でもよかったです」

「え?」

「私1人だったら不安でしたけど、太陽さんが一緒なので安心です」


 僕は不安なままだけどね……。食は何とかなりそうだけど……助けが来るかどうか分からないこの状況、楽観視できない。

 完全に日が落ちた今、森の方は何も見えない。夜は完全に動けないな……。

 妹ちゃんは立ち上がって海の方へと行く。ちょうど今日は満月だ。


「私ちょっとだけわくわくしています」

「わくわく?」

「危機的な状況なんですけど……2人で力を合わせれば絶対に助かる。私はそう思っています」


 妹ちゃんは浅い海に入り、蹴飛ばすように水を飛ばす。月の光が海の水平線の先まで直線状に照らして……彼女はその中を踊るように歩く。

 まさに月からやってきたかぐや姫そんな感じに思えた。


「明日からがんばりましょう!」


 栗色の髪が月の光を受ける。海から飛び跳ねた潮水が彼女の髪を潤い、しっとりとさせる。

 僕に向け、穏やかな笑みを浮かべる妹ちゃんはとても美しい。くりくりとした二重の瞳と眼が合い……僕は魅了されてしまう。

 沈めていた心の中の好意がうっかり表に出そうになっていた。


「綺麗だ……」

「え?」


 その言葉を聞き取られなくてよかった。

 この娘を絶対に助けたい。この綺麗な笑顔を絶対に絶やさせやしない。

 不安な状態だった僕の心は熱く燃え上がり……確たる信念へと変わる。

 抑え込まれた恋心だけがきっかけじゃない。この満月のように光輝くこの娘を助ける。助けなきゃいけないんだ。


 僕と妹ちゃんは浜辺に寝転ぶ。


「こ、ここから先は……入っちゃダメですよ」


 砂浜に線を引かれて、侵入禁止と言われてしまう。

 ま、男と女だから何も言わないけどね。 どうせ空手やってた妹ちゃんを襲っても返り討ちに遭うだけだよ。


 僕は思わず笑ってしまったが……すぐに眠りつくことになる。


 ……しかし事態は悪い方向へ進むことになる。

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