過去章 7月下旬

118 あの夏の思い出①

「海だあああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 白い砂浜、青い海、潮風が心地よくて最高だな。

 時は7月下旬、終業式が終わって1週間たった僕はバカンスに来ていた。

 高校2年生でバカンスとかありえないでしょう。1年前では考えられなかったな。


「金のかからない遊びは悪くない」

「お、星矢もちょっとテンション上がってるぅ?」

「お前ほどじゃない」


 親友、神凪星矢は相変わらずのローテンションだが、いつもよりはご機嫌のように見える。

 星矢も先週は水里さんの実家の東北地方に行ったりして大変だったらしいし、羽を伸ばしたいのかもしれないね。こっちはバイトの替え玉で大変だったっつーの。


 僕と星矢はビーチパラソルやビーチチェアを用意。ビーチバレー用のネットは後でいいだろう。

 さぁ……そろそろ待ちに待った女性陣の登場かな。


「海だ!」

「海だよ!」

「海ね!」


 ヒュー。

 テンションの高い3名はそれぞれ世良さん、水里さん、ひーちゃんの3人だ。

 しっかり体の鍛えられたスポーツガール、喋らなきゃ完璧な美少女、人気急上昇中のアイドル。3人ともかなりスタイルが良い。

 目のやり場に困ってしまうね。星矢はガン見している。イケメンだから許される行動だな。


「どうだい、我が九土原家が所有するビーチは」

「あんたの家はほんと無茶苦茶よねぇ」


 おお、ビューティー!

 170近い体躯でボッキュッポンの九土さんは本当にすげぇ。お金のことを考えたらこの人の方が星矢より完璧だよな。

 横にいる北条さんもすらっとしてとても綺麗だけど……やはり髪が長くて……スタイルの良い女性に目がいってしまうねぇ。


 そう、僕達は九土原家が所有するプライベートビーチ。太平洋に浮かぶ……何て島か忘れたけど、そこそこ広めの無人島を買い取ってるらしい。

 毎年夏にバカンスに来るとか。今回は九土さんがいつものメンバーを招待してくれた。九土さんの愛する星矢の友人でほんとよかったよ。

 3泊4日の夏旅行。高台に大きなコテージがあり、大人はいないけどそれなりに有能な10人が揃っているので何とか暮らしていけるだろう。


「それで星矢、誰の水着が一番なんだ」


 女性陣が聞く耳をこちらに向けたような気がする。


「さあな。だが水着が一番似合っているのは」


 星矢は実にさわやかな笑みを浮かべた。


「太陽、おまえだよ」


 ギリッ!


「そんな冗談はマジやめて。君の後ろにいる女性陣に殺されるそうになるから」


 星矢のさわやかな笑みの後ろで真顔になる女性陣に僕は恐怖するのであった。


「みなさーん、荷物運んでください」


 台車で荷物を運んでいたのは瓜原さんと弓崎さん、そして……。

 3人ともパーカーを着ており、その水着姿は見えない。ちっ、序列NO.1の弓崎さんの水着は見ておきたかったんだが。あと……あの子も。

 荷物運びは男の仕事ってわけでもないけど、僕はすぐさま彼女達に近づき荷物を受け取った。


「ありがとうございます、太陽さん」

「この重いのを受け取るよ。妹ちゃん」


 星矢の妹、神凪月夜は白のパーカーを半開きにしていた。花柄のワンピースで少し地味な印象の水着だけど、長くて輝く栗色の髪は相変わらず綺麗で……魅力的だ。

 妹ちゃんと目が合う。


「どうしました?」

「何でもないよ。後の奴も僕が運ぶから君達は先に遊んでな」

「そんな悪っ……くしゅん!」


 妹ちゃんはかわいく、口をおさえてくしゃみをした。

 僕はその隙に側にあった台車に荷物を全て積み上げる。

 これで一回で運べるな。


「すみません、ありがとうございます」

「ああ」


 そして僕と妹ちゃんは……。


「木乃莉行こうか」

「おーい、星矢~。先にビーチバレーにネット張ろうぜ。手伝ってくれ」


 仲良く談笑をすることもない。用事が無ければ話かけることもない。

 友人グループとはいえ、彼女は僕にとって星矢の妹でしかないのだ。そう……僕の心の奥底に眠る恋心を彼女に向けることは決してない。


 ◇◇◇



 それから2日間僕達はバカンスを楽しんでいた。

 無人島もバカンスとして開拓されているのは島の西の半分だけで、東の半分はほぼ未開拓らしい。探検は危険なので行かないようにという話となっている。

 全員そんな子供でもないので危ない橋を渡ることはなかった。


 星矢をめぐる女達の激しいバトルが日夜繰り広げられたのは言うまでもなく、僕はそんな様子を楽しそうに見る。

 1人、この立ち位置で見物するのは嫌いじゃない。

 それにしても……。


「天気悪くないか?」

「今週はずっと晴れだと思っていたが」


 僕と星矢は空を見てそんな話をする。

 コテージまで戻らないとネットもテレビも見れない。スマホはコテージに置いてきてるしな。

 って雨降って来たぞ。風も出てきたな。


「やむをえん、コテージに戻ろう。全員揃ってるか?」

「火澄ちゃんと海香ちゃんが海に入ったままだよ」


 九土さんと水里さんが中心となってみんなを呼び集める。

 先にいくわけにもいかない。波はまだそんなに強くないし、北条さんと世良さんもこっちに泳いて戻ってきているのが見える。

 8人集まって、2人が海から出てくるのを待った。


「ごめん! 待たせちゃった」

「急に天気悪くなったね」


 さすが体育科の2人だ。あっという間に戻ってきた。風が出て、波が出て、大きくなったら大変だもんな。


「戻るぞ」


 星矢の声に皆が頷き、必要な荷物だけ持って高台までの道を走る。

 何だこれ……大雨になってきた。台風? いやでも……風も強いし……木がすっげぇ揺れている。

 運動が苦手な瓜原さんや弓崎さんをフォローしつつ、山道を歩いていく。

 さらに雨が強くなってきた。


 ……何だろう、嫌な予感がする。コテージは頑丈って話だから台風が来ても大丈夫だ。

 そういえば……海に出るまでの間に土砂崩れの場所が何個もあった。もしかしたらこの道も。


「あと少しだ」


 大雨で前が見づらくなっている。

 その時、突風が吹いた。


「きゃっ」


 妹ちゃんの被っている帽子がふわりと風に乗って舞い上がる。彼女は山肌近い所に落ちた帽子を拾おうと近づく。

 僕は上を見ていた。さらに上の岩場が不自然に動いている。もし……あれが動いて降り注いだら……? ちょうどその真下に彼女はいた。

 僕はいてもたってもいられなくなり、上着を脱いで走り出す。それと同時に上で轟音が鳴り響いた。

 全員が視線を上に向ける中、僕は構わず彼女の元へ駆け出す。彼女の上に土砂が降り注ぐ前に、彼女に上着をかぶせて抱え込むようにして飛んで避けた。


 しかし、場所が悪かった。そこは崖となっており、未開拓エリアの東側に通じる、森林地帯だったのだ。僕は妹ちゃんが傷つかないように背中を盾にして庇い……そのまま崖下まで転落した。


 そして僕は意識を失った。

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