103 恋愛相談ver2④

 翌日の土曜日、僕と月夜はそわそわした気持ちで図書館にいた。

 今日星矢と水里さんがデートをしているわけだが……、月夜に落ち着きがない。


「気になる!」


 本に集中できていないようだ。

 何度か読書を止めて、スマホを見つめる。


「何かあったら連絡するって言ってるんだっけ」

「はい。でも1度も来なくて」


 あれで波長の合う2人だから……そんなに気にすることもないと思うけどね。

 月夜にとっては兄の恋路となるから気がかりなのだろうか。


「じゃあ、見にいってみる?」

「そ、それは……反則なような気もします」


 それは2人を邪魔する形になってしまう。月夜もそこまでする気持ちはないようだ。

 お、ちょうどお昼か。向こうは水里さんの手作り弁当が振る舞われているのかな。

 月夜がざっと立ち上がった。


「太陽さん、ちょっと出ませんか」


 僕と月夜は自然公園の方まで足を伸ばす。1月も下旬となり、年が変わってあっという間だなと思う。

 2月が過ぎ、3月が過ぎ、3年生になるのか。

 今日はまだ暖かい方だ。日も差しているし、散歩にはいい時間だね。

 月夜がくれた手袋はかかさず着用するようにしている。これ本当に暖かいんだよな。


「どうしたんですか?」


 ちょっとにやにやしてたのを見られてしまったようだ。


「月夜のくれた手袋が暖かいなって思ってたんだよ」

「そういってもらえるなら編んだ甲斐がありますね〜。嬉しい!」


 今日の月夜は茶色のコートにスカートを着ている。大人しい感じであるが、元々目を惹く容姿をしているため変わらぬかわいさを誇る。


「ところで何も考えずついてきたけど……、何かするのかな?」

「え? 気づいてなかったんですか」


 ちょうど自然公園の休憩スペースに到着する。

 月夜と僕は木のテーブルのあるベンチに向かい合って腰をかけた。月夜は少し大きな手提げかばんから風呂敷に包まれた箱を取り出した。


「あ、そういうことか」

「そういうことです」


 月夜は風呂敷を取り、箱の蓋を取り外す。中は様々な食材で彩られた実に美味しそうなお弁当となっていた。肉、野菜、魚、米、本当にたくさん入っている。

 そうか、月夜と水里さんの2人で共同で作ったんだったらこちらの分があってもおかしくはない。

 紙のお皿に、紙コップ、割りばしまで準備してくれていた。


「おー、これは美味しそうだ」

「手をかけて作りましたからね。美味しいですよ」


 紙コップには温かいお茶を注いでくれる。これは役得だな。月夜のお弁当が食べられるなんて、実にいい日だ。じゃあさっそく頂きましょう。


「何から食べますか?」

「じゃあ、卵焼きからもらおうかな」


 月夜は箸で卵焼きの1つを掴み、僕の方へ渡そうとするが木の机は大きく……距離があった。

 月夜は皿の上に卵を置いて、僕の方のベンチに移動した。

 急に近寄られて、少しドキリとするが、月夜は構わず僕の側に寄る。


「はい、あーん」


 月夜は再び、卵を掴んで僕の口の方へ持ってくる。

 やばい……、これは何というかドキドキしすぎる。僕は口を開けて、卵焼きが口の中に入ることを確認した。

 甘さ控えめで弾力のある卵の味が口内で美味となって駆け巡る。


「おいしい!」

「太陽さん、私にも食べさせてください」


 柔和な笑顔で月夜は声をかける。思わず抱きしめたくなるような優しさに照れてしまうが……振り切り、僕は弁当から肉団子を箸でつかんだ。

 月夜は目を瞑って、口を開ける。

 そのまま肉団子を口の中に入れてあげた。


「うん、しっかり味が染みてる」

「僕も食べてみようかな」


「あらあら、仲睦まじいカップルね」


 ふいに近くを歩く、老夫婦にからかわれ、僕と一緒に月夜も頬を紅く染めた。

 カップル。普通はそう見えるよな。ここまでして恋人同士でじゃないなんてありえないよな。

 僕と月夜ではまったく釣り合いが取れていないのに赤の他人から見れば普通に恋人同士に見られるんだな。


 そりゃそうだよな。そんなの当たり前のことだった。


「カップルですって」

「そ、そうだね」


 月夜ははにかんだように笑ってみせた。栗色の髪が揺れて、月夜の魅力がまた増したように感じる。

 僕はもっと触れ合いたい誘惑をおさえて、弁当に箸を伸ばした。

 しっかり海苔の巻かれたおにぎりを掴み、口に入れる。塩分もきいていて、水の量もばっちりだ。


「私……太陽さんと一緒の時が一番幸せですよ」

「んぐっ」


 おにぎりが喉につまってしまった。

 月夜はすぐさま紙コップに水筒に入れたお茶を注いでくれて、手渡してくれた。

 勢いよくお茶を飲み喉を潤す。


「ふぅ……」

「慌てちゃダメですよ。ふふっ」


 月夜は手は口に小さく笑った。つられて僕も笑ってしまう。

 ああ、確かに幸せだよ。

 君と一緒のこのひととき……。本当に幸せだ。 星矢や水里さんも楽しんでればいいなぁ。


 和やかな昼食を終え、僕達はゆっくりと自然公園を歩き、2人きりの時間を十分楽しんだ。


 1月も末を迎え……最後へのカウントダウンが始まる

 ここから先はもう止まらない。


 僕と月夜の物語はクライマックスへと続く。



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