094 タピオカ

 僕と月夜は神凪家を出て、通りを歩いていた。

 さっきまでのやりとりは月夜、僕の記憶から消去されている。

 さてと……、確かあれは11時からだったかな。まだ時間はあるし、どこで時間を潰すか。

 僕と月夜は街の商店街の方へ足を運んでいた。


「どこかカフェでも入ろうか?」

「そうですね。だったら……あっ」


 月夜は僕から離れてキョロキョロまわりを見渡す。

 すると何かに気づいたようで離れたところから手を振って僕を呼んだ。


「ありました~」


 月夜に近づく。


「どうしたの?」

「夏の時に並んだタピオカ専門店ですよ」

「ああ、あの時か」


 月夜と親しくなり始めたあの夏の時……。

 当時タピオカが話題になってたよなぁ。そう確か……1月と正反対の暑い日だったな。


 ◇◇◇



「へぇ……これが有名なタピオカ専門店か」

「すっごくおいしいんですよ!」


 8月下旬のある日、妹ちゃんから月夜と呼ぶ名前が変わったことに慣れてきた頃だ。

 でも、2人きりで女の子と一緒に行動することにはまったく慣れていなかった。

 くりくりとした二重の瞳と目が合うたびに照れて目をそらしてしまう。年上なのにいかんよなぁ。


 小説の新刊が欲しかったので少し離れた大きめの書店へ足を運んだ帰りに月夜へ連れられてここへやってきた。

 最近タピオカはブームとなっており、僕自身も1度飲んでみたかった。行列は女性ばかりで、僕には縁のない場所だったが月夜と一緒なら話は別だ。

 しかし、長蛇の列だ。この暑い中でこんなに並ばないといけないのかな。


「今日は何飲もうかな~」

「何がオススメなの?」

「うーん、私はミルクベースが好きですね。定番のミルクティもおいしいですよ」

「悩むねぇ」

「この列ですからね。私も3回ぐらいしか飲めてないですよ」


 それにしても女性ばかりだな。男性もいるにはいるけど……、ちょうど2つ前が男女ペアで並んでいるな。同じ高校生くらいの男女のようだ。

 ち、カップルか。滅びねぇかな。

 男の子と仲睦まじく話をしている女の子の横顔が目に入る。


 びっくりした……。


 お日様の光を十分に浴び、光輝く艶のあるダークブロンドの髪と愛くるしい大きな二重の瞳、筋の整った高い鼻、とんでもねぇ美少女がそこにいた。

 ちょっと日本人離れしているからハーフなのかな。アイドル級……それ以上か? あんな美少女と一緒にいるとかあの男の子が相当うらやましいな。

 思わず見とれてしまった。すぐ女の子は前へ向くようになり、僕も我に返る。


「二つ前の人、すっごく綺麗ですよねー」

「へ?」


 じとーっとした棒読みの声を月夜は上げる。

 なんか機嫌が悪い? 何かしたかな。


「あーいう感じの方が好みなんですか?」


 見惚れてしまったことに気づかれてしまったのか。

 そりゃあんなに美人だったら見惚れてしまってもおかしくはないさ。


「確かにすごく綺麗な方です。私もびっくりしましたし」


 他では見られないという意味では月夜も同感に思えたのかもしれない。


「月夜だって負けてないと思うよ。学園のかぐや姫だもん」

「あのあだ名恥ずかしいんですよ。断るのも大変なんですから」


 1000人に告白されてもYESと言わない学園のかぐや姫、隣にいる女の子だって超絶美少女だ。

 負けているなんて思えないけどね。



 ◇◇◇


 時は冬。

 僕と月夜はタピオカ専門店の店内であの時、互いに頼んだ物とは違う方のタピオカドリンクを頼んだ。

 僕はホットを頼んだが、月夜はコールドの方を頼んでいた。

 冷たい方が好きらしい。店内は暖かいから分かる気がする。


「タピオカの味がクセになるよね」

「あれからも何度か海ちゃんや木乃莉と並んでたんですよ。すっかりハマっちゃいました」

「こうやって一気に……ゴホッ!」


 やば、一気に飲みすぎて気管に入ってしまった。

 ホットだから特に熱いしきつい! むせてしまった。


「もう、太陽さんったら」


 月夜は鞄からハンカチを取り出して僕に渡してくれる。

 なかなか咳は止まらないがなんとか落ち着いてきた。月夜からハンカチを受け取り、口を拭う。

 ん?

 月夜の飲んでいたタピオカミルクティがテーブルにない。ふと目線を上げると、月夜はドリンクをストローで吸っていた。

 ただ、置き場所がすごかった。よく育った胸元にドリンクを置いて、手をフリーにし、飲んでいたのであった。


「タピオカチャレンジ……」


 月夜は言葉の意味が分からなかったようでそのまま口にストローを咥えたまま首をかしげた。

 とりあえずスマホでちゃっかり写真を撮ったのでいつか説明してやろう。


 ドリンクも飲みきり、そろそろ移動と言った所、月夜は声を出した。


「太陽さんと初めてこの店に来た時、すんごい綺麗な方がいましたよね」

「ああ、ダークブロンドの髪の子だろ。あれは忘れられないよね」

「太陽さんが見惚れているを見て嫉妬しちゃいました」


 そんなこともあったね。でも女の子がすっごく綺麗だったから忘れられないね。


「初々しい感じだったな。隣の彼氏と飲み合いして……顔を赤くしてたもんな。月夜みたいだった」

「最初の時はそうでしたけど、今はもうそんなことないんですから。ふふーん」


 そんなこと言うわりに結構すぐ赤くなってる気がするよ。まぁ僕もだけどね。


「それにあーいう人が太陽さんの好みって分かりましたし」

「違うよ」


 僕は首を横に振った。


「確かに美人で見惚れていたのは確かだけど、好みってのは違う」

「じゃあ、太陽さんの好みの子って」


 僕は立ち上がってテーブルの上の伝票を奪っていく。


「僕は月夜以上に好みと合致する女の子に会ったことはないよ」

「ふぇあっ!?」


 月夜の姿を背に僕は客席を突き進み、会計の所まで行く。

 店員さんに伝票を渡した瞬間、僕は頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「あああああ!」

「どうしたんですか!?」

「は、恥ずかしいぃぃぃぃぃ!」

「だ、大丈夫ですか?」


 ああ、勢いにかまけて、なんてことを言ってしまったんだ。

 何一つ間違ってないけど、あんなこと言うじゃなかったぁ。


 店員さんに心配されてしまった。

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