093 シスコン

 1月も中旬となり、学生生活も日常へと戻る。

 冬休み前から変わらないかなと思っていたけど、僕の意識は大きく変わってきているような気がする。


 星矢と遊ぶか、1人で趣味を満喫することがほとんどだった土日にもう一つの選択肢が出来てしまった。

 神凪月夜と過ごす選択肢が僕の心の中を大きく占めているような気がする。

 初詣やお正月明けから登下校、昼休み、部活動……。月夜と一緒にいる時間が誰よりも長くなっていた。

 現状維持という言葉で片付けたため恋人ではないが、友達以上恋人未満であることに間違いはない……と思う。


 今日はとある件があって月夜を誘ってみたが1発返事でOKをもらってしまった。

 夏休みの自分からすれば信じられないような行動力だよな。

 いつもの駅前だと1時間前集合になってしまうので、今回は僕自身が神凪家へ行くことにした。


 神凪家のあるアパートの204号室のチャイムを鳴らす。

 返事はない。もう9時だからさすがに起きていると思うけど、仕方なく合鍵を使って扉を開ける。


 すると親友神凪星矢が仁王立ちしていた。


「おまえが俺のかわいい妹をたぶらかす馬の骨か」

「馬の骨って言葉を使ってみたかったんだね。わかるよ」


 星矢の後ろで月夜がチラチラとこちらの様子を伺っているところが見える。

 今日もかわいい。

 なんかあったんだろうな。


「で、君のかわいいかわいい妹と遊びにいくから兄貴はすっこんでろよ。邪魔だ、どきな」

「ほほぅ、言うじゃないか」


 こういうセリフを1度言ってみたかった。星矢じゃなきゃ絶対言えないセリフだ。


「それでどうしたの?」

「10時からバイトなんだ」

「暇つぶしかよ」


 かなり時間に余裕はあるから構わないけどね。

 玄関先で僕と星矢は会話を続ける。

 せっかくだし、聞いておくか。


「星矢はさ、誰かが月夜と交際しても構わない派なの?」


 星矢は間違いなくシスコンである。月夜の生活のためにバイト量を増やし、稼いだ金で月夜の生活を潤うようにしている。

 女の子だからということもあるし、星矢自身が節約、貯蓄型で自分に金を使いたがらないタイプというのもあるだろう。

 シスコンの代名詞として、妹は絶対俺の物。絶対、男なんか作らせるか……みたいな感じだと思ってた。


「俺は妹を愛しているが猫可愛がりしているわけじゃないぞ」

「そうだったら僕と遊びにいくのも許さないもんね」

「しっかりした男と交際するのであれば別に構わない」


 ってことは星矢視点では僕は合格ということなのだろうか。


「おまえは顔はギリギリ、成績もギリギリ、運動もギリギリ……つまり及第点だな」

「そりゃどーも」

「妹を大切にしてくれるっての分かるから。俺は何も言わん。月夜が嫌がらない限りな」

「星矢……」

「そういう意味で現状維持ってのはあんまり好かんがな」


 初詣で決めた僕と月夜の距離。恋人のような形ではない……あくまで友達以上恋人未満での距離感。

 僕が月夜に突きつけてしまったことだ。

 星矢もそういった中途半端な関係は好かないのかもしれない。


「ごめん、でも……もう少し時間をくれれば」

「そんな意味じゃないぞ」

「へ?」

「俺的にはさっさと交際して月夜の処女を奪ってくれるとありがたいということだ」

「ブホッ!」


 吹いた。


「あんなもん持ってても変な奴がやってくるだけだしな。ここらでちゃんと交際しておけば男を見る目も養われるし、将来につながる」

「君は何の話をしてるんだ?」

「大事なことだぞ。月夜は優秀ゆえに駄目な男を捕まえてしまう危険性を持っている。それは兄として避けたい。おまえだったら及第点だし、おまえの両親は素晴らしい人たちだ。文句はない」


 やばい星矢のひん曲がった子育て理論が始まったぞ。こうなったら長いんだよな。


「おまえは知ってるか? 月夜のミュージックプレイヤーにおまえの喋った言葉が入ってるの」


 それはクリスマス前に1度聞いたな。吟画山へハイキングに言った時に録音した言葉だ。確か1700回以上再生されていた気がする。


「四六時中あいつ、あのセリフ聞いてるんだぞ。試験勉強中や本読んでる時、朝9時から夜23時までずっと再生してるんだぞ。俺の頭がおかしくなりそうだった」

「そ、そう」


 それが僕の声であることはなんとも言えない。でも星矢視点だと相当きついと思う。もし、実妹が星矢のボイスを流し続けていたら……、病院を勧めるな。


「怒鳴ったおかげで最近はイヤホンで聞くようになったがそれでも毎日聞いているからな。あいつは重い。何事にも重い。ゆえに変な男を好きになる前にさっさと処女を」

「ひっ!」


 星矢の後ろからこちらに近づいてくる。美しすぎる少女。かわいいのにとても恐ろしく感じる笑顔だ。じっくりとじっくりと近づき、星矢はそれに気づかない。

 僕は恐ろしさに声が出なくなっていた。

 その少女、月夜は引きずっていた大きな椅子を振りかぶった。


「バイト先の先輩からもらったゴムをやる。これで今晩にでもやって」

「死ねぇ馬鹿兄ぃ!」

「あべしっ!」


 頭、背中を強打され神凪星矢は撃沈した。

 椅子を下ろして、兄貴を蹴飛ばして家の中に入れてドアを閉める。

 月夜はこちらを向いた。


「さぁ、太陽さん。行きましょう!」


 いつもの月夜の笑顔だった。

 僕はさっきまでの話の流れを記憶から抹消することにした。

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