084 みんなと初詣①

 

 12月31日、大晦日年の瀬だ。

 朝から家の大掃除に正月の買い出しなど手伝うことになり大忙しだ。

 山田家は大した家ではないがちゃんとこのあたりしっかり行うためこの時期は地味に忙しい。

 正月三が日は親戚周りもするしね。

 クリスマス後からは何かと忙しくて月夜どころか星矢とも話せてない。メール1つ送ればいいのだが……結局そのままだ。

 忙しいといっても夜には解放されるのでそこから急に暇になってしまった。


 最寄り駅から数駅離れた所に由緒正しい大きな神社がある。

 年が明けて12時過ぎに駅前に集合、みんなで初詣に行く流れだ。

 去年は同じように暇だったので星矢の家へ行き、月夜を含む3人と年越しそばを食べて、世良さん、瓜原さん交えて5人で初詣に行ったっけ。

 今は何とも行きづらい。星矢がもしバイト中だったら月夜しかいないわけなので気まずいし……。


「初詣も行くのやめようかな……」


 重い気持ちになってきた。

 年の瀬に何でこんな気持ちにならないといけないんだろう……。

 ネガティブな気持ちになっているとスマホから着信が入った。連絡の相手は星矢だった。


「今、暇か」

「うん、どうした?」

「早速準備しろ。出かけるぞ」


 部屋の窓から外を覗く1台の黒塗りの車が止まっていた。あれは九土原家の所有の高級車だな。

 この流れ……知っているぞ。適当に着替えて、カメラをショルダーバックに入れて外へ出た。

 後部座席に乗り込むと星矢が気持ちよさそうに背もたれに寝転んでいる。


「おっす」

「ああ、俺もバイトが終わって即捕まった」


 星矢がばっとスマホを見せてくる。九土さんから単独メールが飛ばされており『年末のパーティに行く必要がなくなったので私のかわいい子猫たちで遊ぶことにした。君は太陽くんを連れて待機せよ』

 だそうだ。

 車は発進し、恐らく九土原家別邸に向かうのだろう。夏祭りもクリスマスパーティもあそこだったしね。


「なぁ星矢……月夜はどうだった?」

「いつも通りだ。期末試験の前後みたいなピリピリはない」

「そ、そうか」

「タイミングを見て話をしてみろ。チャンスはある」


 時刻は20時を過ぎており、僕と星矢は客室でのんびりしていた。飯は出てくるし、テレビはでかい。70インチのテレビなんて初めて見たぞ。

 さすが超金持ち……レベルが違うな。


「もし星矢が九土さんと結婚したら……毎日遊びに来たい」

「何の話だ。馬鹿なこと言ってんな」


 そんなこと言いつつも星矢も考えているんじゃないだろうか。これぞ玉の輿だよね。九土さんはしっかりとした女性だから、マジでヒモな生活もできるんじゃないか。

 僕には関係ない話だけど。

 ふざけた話をしていると九土さんが客室に入ってきた。


「2人とも随分のんびりしているな」


 霞色のロングヘアを靡かせ、九土さんは近づいてきた。恰好は普段着のようだ。それでも僕達が着ているようなものに比べたら圧倒的にオシャレである。


「先輩、今回はどうするんですか」

「もう少ししたら君達の着替えを用意するから準備するといい。袴など着たことないだろう。着付けてもらうといいさ」

「袴かぁ……。夏の浴衣もそうだったけど気が引き締まるな」

「汚れてもいいような安いものだ。気にしなくていいぞ太陽くん」


 といいつつ前着た奴を後で調べてみたら額が6桁超えていたんだよな……。九土さんの楽しみのためとはいえ、高い着衣はやっぱこえーわ。


「今回九土さんもばっちり決めてくるの?」


 この前の浴衣は完璧だったからね。月夜も相当可愛く仕上がってたけど、九土さんの方が圧倒的に存在感があったように感じる。


「そうしたいのは山々だが、急遽こっちに帰ってきたから準備ができていない。今回は月夜君にその役目を譲ることにするよ」


 月夜か……。それはちょっと楽しみだ。


「ありがたいのですが、妹にあんまり高い着物は着せないでください。何かあったら……」

「気にするな、私が見たいだけだ。月夜くんのキュートできゃわいい振袖姿を是非とも記憶に焼き付けたい。太陽君、しっかりカメラを頼むぞ」

「九土さんはいつも楽しそうだなぁ」


 九土さんは目を輝かせている。この人はかわいい女の子がほんと好きだから……何ともいえん。

 他の子達に振袖を着せて楽しむ予定だからウキウキのようだ。元々は日が変わるまでお偉いさんとパーティだったらしくてテンションが下がっていたらしい。

 初詣も行けるかどうか分からないと言っていたから九土さんにとって楽しみで仕方ないのだろう。


 星矢と九土さんがいつものようなやり取りをしている内にあっという間に男用の着物が部屋に運ばれてきた。


「では私も着付けに行ってこようか。あ、そうだ、太陽くん」

「あ……はい」

「クリスマスにあったことは皆が知っている。君にも言い分があると思うが……月夜くんにも想いがある」

「……うん」

「君達の仲を皆応援している。君はそのあたりのことをちゃんと考えた上で……発言をし、彼女を見てやってくれ」


 それだけ言って九土さんは出て行った。


「あれは励ましてるのかな」

「いや、8割ぐらい脅しだな。おまえごときが月夜を悲しませてるんじゃないって俺には聞こえた」


 やっぱ徒党を組んだ女性って怖いわ……。あのクリスマスの夜、いったい何があったんだろうか。女性全員ここに泊ってたんだよなぁ。

 でも残る2割の励ましを……僕は心に刻みつけたい。

 僕と星矢は着付けをしてもらい、年越しを待たずに神社の方へと移動した。

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