083 月夜とクリスマス③

 時刻は16時30分、そろそろ九土さんの家に向かって歩き始めたい時間だ。

 僕と月夜はモール近くの自然公園へ足を運ぶ。この前……ケンカしたわけではないけどあの騒動で仲直りして以来だね。

 今回、月夜が前を歩いている。背中の先まで伸びた長い栗色の髪が風に乗って揺れている。

 僕は月夜からの言葉を待った。


「これは……友達の話なんですが」

「……友達の話か」


 こんなこと言って友達の話になったことなどない。

 多分それは月夜も分かって言っているのだろう。

 月夜はゆっくりと僕の方を振り向いた。


「その子は好きな人がいるみたいなんですよ。優しくて頼りになって……つらい時に助けてくれる人……らしいんです」

「僕とは正反対みたいだね」

「もう……」


 月夜は不満げな表情をする。


「好きな人もその子が好きらしいのです。本当かどうかは分からないけど……ずっと見ていてそう感じるのです」

「そう……か」


 僕の胸がドキリとする。見透かされているのか、それとも。


「でも好きな人の心の奥底がまったく見えないんです。その先がまっくらで……だから告白をするか……迷っているのですよね。その先へ踏み込めないんです」


 月夜はぐっと僕を見つめた。

 ……そのような話で来るのであれば僕は自分の胸中を伝えたい。


「そうか、もしかしたらその人はその先を求めていないのかもしれないね」

「求めていない……ですか?」

「その先……交際とか恋人とかそんなとこだろう。僕、いや……その好かれている人はその女の子に対して劣等感を抱いているのかもしれない」

「え?」

「誰より輝いていて、美しくて、優しい……、そんな女の子の隣にふさわしくないと思っているのかもしれない」

「そんなこと!!」


 月夜は強い口調で声を上げる。


「その女の子がきっと好きなんだ。……でも女の子と並んで歩く自分が想像できなくて……違う人物じゃないかと思うようになって……そのギャップがとてつもなく苦しくてつらい」

「……」

「やっぱりその人は僕に似ているのかもしれないね」

「っ!」


 嫌な言い方だったかもしれない。

 月夜は歯を食いしばるように目を閉じた。


「だからその先へ踏み込まないでほしいのかな。今のままの関係が……一番嬉しい」


 月夜は黙り込んでしまった。

 僕は左腕の時計を見る。


「そろそろ行こう。クリスマスパーティが始まる」



 ◇◇◇



 それから……僕と月夜は最低限の会話で九土さんの家へ到着する。

 予定通り18時からスタートし、僕は星矢や水里さんと、月夜は世良さんや瓜原さんと話を始めて……滞りなくパーティは進行した。

 お待ちかねのプレゼント交換でなんと僕は星矢のプレゼントを手に入れてしまうことになり、ほぼ全員の女性からにらまれる結果となってしまったのだ。

 首に星矢作成のマフラー。手に月夜の手袋。神凪兄妹の愛に溢れているな……。


 数時間が経ち、お開きとなった。星矢は25日の朝からバイトするため、今日は帰ると言っている。女性陣は全員泊っていくらしい。

 当然僕は1人で残るはずもないので星矢と一緒に帰ることにした。

 タクシーで家まで送ってもらう予定だったが……ちょっと無理を言って最寄りの駅前で降ろしてもらった。

 僕と星矢は一緒に帰り道を歩く。


「それで何があった」


 明らかに気落ちしてる僕に星矢は気づくよな。

 自分がしでかしたこととはいえ、もう少し違うやり方があったのかなと思ってしまう。

 星矢に言えば何か変わるだろうか。


「遠まわしに月夜を振ってしまったかもしれない」

「そうか」


 星矢は分かっていたようで強く聞かない。場の雰囲気を感じとっていたのかもしれない。

 僕は夕方、月夜といた自然公園での話を星矢にした。


「随分まわりくどいな」

「僕が悪いんだよ……。はっきりと意思表示をしないから。でも月夜の初告白を防げたのは結果的にはよかったのかな」


 僕に振られるなんてなったら、月夜自身、良い気持ちにならないだろう。月夜には綺麗なままでいてほしい。


「俺は月夜に告白されておいた方がよかったと思うけどな」

「え?」


 星矢は僕の方をじっと見る。栗色の髪、二重の瞳、本当によく似ている。身長が高いからあれだけど、女装したら結構月夜っぽくなるんじゃないかなと思ってしまう。

 今、そんなことを考えてる時じゃなかったな。月夜に対して星矢みたいに自然体で話せればと思うよ。


「俺に告白してきたあいつらは……それを契機にまた強くなった。少なくとも俺が惹かれてしまうくらいにな」


 そうか……星矢を好きな彼女達は1度星矢に告白して振られている。でも星矢にもっと見てもらいたい一心でずっとアプローチをかけていた。

 少なくとも今の星矢は彼女達と他の一般的な女性を別に考えていると思う。高校生の間は絶対交際はしないと口酸っぱく言っていた星矢がこんなこと言うくらいには心変わりしているんだ。

 月夜もそうやって変わるのか? でも星矢も月夜も……存在自体が高嶺の花じゃないか。僕は地べたで潜む……形容できない何か。月夜には低い所ではなく高い所を見てほしい。そう願っちゃだめなのかな。


「月夜は……僕ではなくもっと理想的な人が」

「なら徹底的に嫌われたらいい。こっぴどくこき下ろせば月夜はおまえに気がなくなるだろう」

「そんなことできるはずないだろう!」


 僕は強く、頭で考えるより早く口に出してしまった。


「お優しい太陽には無理だろうな。おまえが望む関係を月夜が望むなら言うことはないさ。来週の年越しの後、また全員で集まるだろ。その時にもう一度話をしてみろ」


 今日決まったことだが、年末の大晦日の夜、全員で集まり初詣に行くことになった。

 それまで1週間。どうすればいいか考えないといけない。

 あっ……神凪家に到着してしまった。


「上がっていくか?」

「いや、ごめん」


 星矢も気遣ってくれる。時間も遅くなってるし、これ以上付き合わせるのはよくない。


「月夜には話しておいてやる。でも最近多いな、こういうこと」

「……ごめん」

「俺が言えるタチではないが……もう少し素直になったらどうだ」


 星矢に言われたことを頭に……僕は1人帰り道を歩く。

 初詣か……何とか月夜と話してみよう。

 僕の意思は変わらない。でも中途半端なすれ違いで離れてしまうのだけは嫌だ。


 月夜からもらった手袋を頬にあて、寒空の下誓う。

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