085 みんなと初詣②
23時が過ぎ、少し前から除夜の鐘がなり始めた。参拝客で溢れており、皆年越しをここで過ごし、そのまま初詣という人も多いだろう。
山に面したこの神社はかなり広く、鳥居の前には屋台が多く並んでいる。僕と星矢もこの近くの待ち合わせ場所で女性陣を待っていた。
車が出たという連絡は来たためもう少しで到着かな。年越しまでには間に合うと思う。
年越しをみんなで祝って、すぐに拝殿に行くと迷子になりそうなので少し様子を見た上で参拝って感じかな。
でもこの人の多さ、夏祭りみたいにはぐれてしまいそうだ。
もう一つ、デジャブというか……何というか。
「あの~、お1人ですか?」
「私達と一緒に参拝しませんか」
「あの……もしよければ」
神凪星矢という眉目秀麗な男が袴を着るだけであっという間に女が釣れるというわけだ。女HOIHOIだな。
星矢は適当にあしらって女性達を交わしていく。
「多いな……これで10回目か」
「相変わらずモテるね。袴姿に魅せられてるんじゃないかな」
同じ袴の僕は完全にスルーされてるけどね。背丈のある星矢と袴の相性はばっちりだな。ちらちらスマホで写真も撮られてるみたいだし、芸能人かよ。
オラッ、隣の人邪魔って言うな!
「せ~ちゃん!」
あの響く声は現役女子高校生アイドル
歌を生業にしているだけあって声が通るなぁ。金髪と花柄の振袖が良く似合っている。
後続で
「お待たせしました」
「せんぱ~い、綺麗になったでしょ!」
黒髪で整えているだけあって弓崎さんは振袖が良く似合うな。世良さんも普段はおおざっぱな感じだけど、着飾るとやっぱりかわいい。
「みんな来たのか?」
星矢は声をあげた。
「はい、何台かに別れて来たのですが出発は同じなのですぐに来ますよ」
弓崎さんの言葉通り、
三者三葉みんな違った振袖が似合ってるなぁ。
参拝客からの視線がすげぇ。みんな振袖で顔立ちも美麗だからアイドル事務所かと思われてる。確かにアイドルが1人いるけど。
それをまとめる星矢の顔を見ると納得していくのが面白い。僕はステルスです。
「おー! 星矢くんも太陽くんも袴がよく似合ってるねぇ~」
「かなりの人のようだ。少々騒がしいな」
「年の瀬はこんなもんだよ。でも間に合ってよかった」
3人は周囲を見て口々に喋る
これで8人、あとは月夜と瓜原さんかな。
「星矢、誰の振袖がぐっとくる?」
「こんなところで言えるか」
「いい話をしてますなぁ」
水里さんが話題に入ってきた。亜麻色の髪がしっかり結われていて、さすが元の素材がいいだけあって素晴らしい。
これはスピーカー女だなんて馬鹿にはできないぞ。
「星矢くん、どう? いつもと違う振袖スタイルだよ~」
「まぁいいんじゃないか」
星矢の場合は他の女の子も褒めなきゃいけないからな。この場合、差をつけると大変な目に遭いそうだ。
「でも本当に良いと思うよ。普段髪を垂らしているから印象変わるよね」
「ちっちっち、太陽くんが褒めるのは私ではありません。でしょ?」
周囲の参拝客の視線が別の方向へと向かった。
驚きと綺麗という賞賛の声が次々と投げかけられる。
灰茶色のいつもはおさげにしている髪を今日は結っている瓜原さんと一緒に来たのが……月夜だ。
「太陽くん、来たよ~」
「ほぅ……これは素晴らしいな」
水里さんが紹介するように手を差し伸べ、星矢が淡々と感想を述べる。
月夜の着ていた振袖は桜が描かれた濃いピンクを基調とした振袖だ。
栗色の髪はしっかりと編み込まれ、ピンクの花の装飾が美しさを際立たせている。
見慣れているはずの小顔もこの時ばかりは初めて会うかのような衝撃があった。
顔全体をしっかりメイクもされ……ここまで人は美しくなれるのかと感慨深く思ってしまう。
月夜は僕達の前へ立つ。
「あの……」
「……」
何て喋っていいか分からない。本当の意味で言葉を失うってのはこういうことなのだろうか。
口は開きつつも、うまく言葉が出なかった。
その時除夜の鐘がまた鳴る。
「みんな、あと15分で年越しだよ」
北条さんの声でみんなが現実へと返る。月夜は世良さんや瓜原さんの元へ行き、僕は……立ち尽くした。
「美しくしすぎたようだね」
「や~まだ、つーちゃんにちゃんと言ってやんなさいよ」
九土さんとひーちゃんに言われて僕は肩を落とす。何で綺麗だって言えなかったんだろう。
今までは何度も言えたはずなのに。
「さすが俺の妹、パーフェクト中のパーフェクトだな。俺が育てただけはある」
「星矢くんのシスコン魂はいつも通りなのにねぇ」
10人集まって、その時を待つ。
そして、0時を超えて新年を迎えた。
「あけましておめでとー!」
全員が口々と新年のあいさつを述べる。
1年あっという間だった。そして今年はついに3年生。受験とかが迫ってくるのか。
鳥居の近くでみんなと話していると新年を迎えたことにより、初詣に来る参拝客がどっと増え始めた。
通りは人で埋め尽くされ、僕達のグループもその波に巻き込まれようとしている。
「1人になるなよ。拝殿の近くで人混みが少ないスペースがある。そこで合流だ」
星矢の声に皆が賛同し、近くにいる人と2人1組で集団の波の中で身を寄せ合う。
僕はもう何も考えず、体が自然に動いていた。僕がずっと話をしたいのはただ一人。
その人物の腕をひっぱり自分の所へ引き寄せた。その人物は驚きはしつつも、すぐに身を委ねるようにそっと側に寄ってくれた。
「太陽さん……」
「行くよ、月夜」
「はい」
月夜の腕を引っ張って、僕は参拝客の集団から抜け、神社の鳥居から少し離れた場所へ月夜を連れて移動する。5分ほど歩いて止まった。
ここは山間部となっており、ここから拝殿を見下ろすことができるのだ。
ここなら誰の邪魔も入らない。お参りの時間が遅くなるけど許してくれるだろう。
「ん?」
スマホからメッセージが入る音が聞こえる。スマホを取り出すと送り先は星矢からだった。
「悔いのないように」ってあいつ。そして次々とスマホにメッセージが入る。水里さん、九土さん、北条さん、ひーちゃん、弓崎さん、世良さん、瓜原さん。
みんな短文で一言入れてきた。ったく……おせっかいな人達だな。でも嬉しいや。
僕は月夜と対峙する。
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