081 月夜とクリスマス①

 高校2年生のクリスマス。この僕がまさか……女の子とクリスマスを一緒に過ごすことになるなんてね。その後はクリスマスパーティになるとは……。

 去年のクリスマスは本を読みながら家族と過ごしたっけ。星矢はバイトだったし……、今のグループが本格的にできたのは3学期始まって水里さんが転校してきてぐらいだったか。

 わずか1年でここまで生活が変わるものなんだな。

 ショルダーバックにカメラを入れて、姿見鏡で最後のファッションチェックをする。茶のダッフルコートに黒のスキニー。良い感じにまとまっている。

 勇気を出して九土さんに相談してよかったかもしれない。


「お願いします! クリスマスに来ていく服を紹介してくれませんか」

「無頓着の君が誰かを頼るのはいいことだ。君に合うファッションをそのまま送ってあげよう」

「アドバイスとかは……」

「付け焼き刃でどうにかできるものじゃない。素材がいい星矢ならともかく、下働きのような君のセンスではな」

「あれ、雑兵と下働きってどっちがマシなんだ……?」


 夏祭りに言われた雑兵とどっちがマシか本気で考えてしまった。

 2,3日前に郵送で届き、思ってたより手ごろな値段で揃うことにびっくりした。

 お礼の電話をしたんだけど……。


「ありがとう! もし九土さんが星矢とくっついたら結婚式のスピーチは是非とも任せてくれ」

「き、君はバカか!? そんなこと考える暇があったらちゃんと月夜君をエスコートしろ!」


 そんな感じで怒られてしまった。

 でもちょっと嬉しそうだったことを僕は知っている。

 九土さんはいつも未来を見据えた感じだったから、未来を見据えたコメントしたつもりだったが駄目だったようだ。


 そんなやり取りも過去にあり、そろそろ出ようかと部屋を出た。集合時間は駅前に14時だ。

 駅前まで歩いて20分……実際まだ13時すらなっていない。何というか……予想がついたのだ。

 特急の止まるこの駅は人の移動が多く、この街でも栄えている方だ。生活の中心となるモール街からも近く。市街からも人が集まる。

 クリスマスの雰囲気となっており、彩られている。夜になるとイルミネーションがすごいんだよな。

 13時15分。さすがにまだ……ってやっぱりいたか。


「月夜、待たせたね」

「あ! こんにちは」


 駅前の待ち合わせ場所に咲く一輪の花。

 茶色のコートに白の長めのスカート。栗色の髪はふんわり、サラサラに伸ばしている。初めてのデートのようにメイクをしており、今日のために準備したという印象だ。

 僕が現れて月夜は屈託のない笑顔を見せてくれた。この笑顔が僕のために生まれたことに対しての充実感がすごい。


「今日はやっぱりいつもと違うね」

「ふふふ、今の私は……どうですか。言葉にしてほしいです」


 誘うように僕から言葉を引き出そうとする。そんなもん、かわいいし、綺麗だし、魅力的だよ! としか言いようがない。

 でも言い過ぎて、ありきたりになってるしなぁ。やばいな……顔が赤くなりそうだ。最近は減ってきたと思ったけど……やっぱり月夜の笑顔は破壊力満点だ。


「今までで……一番かわいい……かな」

「やった! 太陽さんのかわいいを頂きました!」


 くっそかわいいな。ほんとかわいいわ。こんなかわいい生物が存在する苦情を兄貴に言ってやる!

 月夜の姿は周囲の目を引く。さっさと移動した方がいいな。月夜を狙っている男の影も見えたし。

 でも普段ならともかく、ここまで誰かと待ち合わせしている感が出ていれば声もかけてこないものなのかな。 

 月夜と一緒に駅前を出て、モール街の方へと足を運ぶ。


「約束時間より45分も早いけど……何時に来たの」

「前は待たせちゃったので1時間前ですね」

「もう約束時間の意味がないじゃないか……」

「太陽さんだって45分前に来ているじゃないですか!」


 今度からお互いの家に行った方がいいのかもしれない。次は絶対1時間前に行きそうだし……。


「太陽さん、かっこいいですね。男らしく見えます」

「そ、そうかな。無頓着の方だけど……やっぱり少しくらい頑張った方がいいかなと思ってさ」


 月夜に褒められると嬉しいな。もう少し、ファッションとか勉強してみるか?

 月夜に限らず、見られて恥ずかしくない恰好はすべきだと思う。ちなみに九土さんにコーディネイトされた話は伏せるように言われた。


「手を握ってもいいですか」

「あ、ああ」


 別の意味で今日の月夜は積極的な気がする。いつもだったら躊躇して、ばっと握って真っ赤になるのに……。

 だけど僕だって成長していないわけでない。お願いしたのが月夜であれば、彼女の手を先に握るのは僕だ。

 月夜の柔らかいの手のひらが触れ合い、温かみを感じる。


「そういえば……いつも手袋してなかったっけ」


 登校時はいつも可愛らしい手袋をしていた記憶がある。僕と一緒で片一方無くしてしまってつけていないとかだろうか。


「持ってますよ。でも手袋よりこうやって手を握ってる方が暖かいんです」


 頬を紅くし、穏やかな月夜の言葉に僕の胸をさらに強く打たれる。思わず握る手が少し強くなる。

 ぐっ、そんなこと言われたら……僕は月夜の方を向くことができなかった。手から生まれた温かさがさらなる熱を生む。


 僕達はモール街へ到着する。

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