082 月夜とクリスマス②

 モール街もクリスマス仕様となっていった。

 至る所にクリスマスツリーが飾られており、サンタの衣装を着た店員も数多い。

 各階層、雪をモチーフにした飾りも多く、季節感が出ていた。


「平日だから人は多くないけど……やっぱり学生が多いね」

「家族連れも多いですよ。みんなクリスマスの準備でしょうか」


 こうやって手を繋いでる所を同じ学校の人に見られるのが怖いんだけどな。

 まぁ誰にも見られないことを祈ろう。

 学生が多いのは今日が終業式だった所が多いんだろう。僕の学校も午前中には終わったしね。


 僕と月夜は今日の夜のクリスマスパーティのためのプレゼントを買いに来ていた。

 定番のプレゼント交換会というやつだね。10人のグループで8人が女性。星矢に当たったとしても神凪家として渡すことを考えると女性物の方がいいだろう。

 被らない方がいいけど……化粧品とか香水とかはさすがになぁ。


「月夜、星矢は何を買っていくんだ? あいつギリギリまでバイトするって言ってたよね」

「お兄ちゃんは手編みのマフラーですよ。家庭科部で準備してたみたいですし」

「さすがの節約志向だな」


 でもハーレムズには星矢の手作りってのが大きいだろう。あいつも器用な奴だし、いいマフラーになるんじゃないだろうか。

 僕と月夜は雑貨店に入る。


「ネタ系に走るか……真面目に選ぶか悩むね」

「最終的に誰に渡るか分からないし、自由でいいと思いますよ」


 月夜と一緒にあれやこれやと見ていく。人と選んだりすると安心できるな。僕の意見と月夜の意見が合わさり理想的なものが選べる。

 よし、これにしよう。


 購入完了!

 わりといいものを選べたんじゃないかな。


 僕と月夜はモール街の休憩場へ足を運ぶ。

 お互い買うものは見えていたので話題はその話となる。


「太陽さんはくまのぬいぐるみでしたよね。いいなぁ~かわいいなぁ」


 僕が買ったやつは有名なシリーズのくまのぬいぐるみだ。定番だからこそ当たると喜ばれる。北条さんとか部屋にいっぱいぬいぐるみがあるって言ってたな。

 そういえば月夜の部屋にもかなりの量のぬいぐるみがあったよな。

 基本ゲーセンで手に入れた物らしいけど、元々好きなんだろう。今度……贈ってあげたいな。


「今度ゲーセンでぬいぐるみ手に入れたらあげるよ」

「本当ですか! やったー!」

「そしてそれを抱いた写真を撮らせてくれ」

「……それが目的なんですね」


 ぬいぐるみ抱いた美少女なんてもうエモさ爆発じゃないか。月夜はどんなシーンでも写真映りが良い。

 服はいろいろ撮れているからあとは小道具だね。今日の恰好だって絶対撮るし。


「月夜はハーバリウムだね」

「はい、私が欲しかったんですよ~。是非ともお兄ちゃんに当ててもらわないとですね」


 意味的には植物標本だっけ。ガラスの中に植物を入れた観賞用のインテリアグッズだよね。

 月夜とかはこういうのが好きそうだ。

 パーティは18時に九土さんの家でスタートだから……17時くらいにはここを出ておかないといけないね。

 今で15時30分か……。今しかないかな。


「月夜、ちょっといいかな」

「なんですか?」


 月夜はほんわかした笑みを浮かべている。いつもニコニコしていて本当に素敵だよな……。

 おっと見惚れている場合じゃなかった。僕はカバンから包装した一つの物を取り出す。


「渡すタイミングが今しかないと思うから。これ月夜へのクリスマスプレゼント」

「え!? わ、私にですか」


 本気でびっくりしたようだ。確かに場所とタイミングがよくなかったかもしれない。

 でも今日じゃなきゃ意味がない。僕は月夜へ手渡した。


「嬉しい……。本当に嬉しいです!」

「開けてみてよ」


 月夜は包装を綺麗に剥がして、中の物を取り出した。きっと月夜なら喜んでくれる。ずっと欲しかったもののはずだ。


「【空を目指して姫は踊る】の1巻の初版本だ……」

「見つけてきたよ。結構探しまわったんだぜ~」


 月夜が擦り切れるほど読んでいる小説だ。この1巻の初版本だけが内容が違い、プレミアムとなっている。

 普通にネットで購入したら万を超えるんだが……奇跡的に通常の値段で売ってる古本屋があったんだよな。得したよ。

 月夜はじっと本を眺めて、僕の方を見上げる。そのまま僕の胸に飛び込んできた。


「おっと!」

「太陽さん! 最高です。お金たくさん貯めて買おうか……ずっと悩んでたんです」


 僕の胸に顔を埋める月夜。抱きしめるのはアレなので軽く、さらさらの栗の色の髪をぽんぽんと触れた。

 喜んでくれて何よりだ。やっぱり欲しい人の所に本は行くべきだね。

 僕は月夜の肩を抱いて、少し離した。軽く涙ぐみ、本を掴む月夜に向かってカメラを向ける。

 月夜は初版本を胸に笑みを浮かべた。いい顔だ。今日の服装に合わせてめちゃくちゃ綺麗だ。


 写真撮影を終え、一呼吸つくと今度月夜がカバンから包装した紙袋を取り出した。


「後で渡そうと思ったんですけど……もらっていただけませんか」


 まさかの月夜からのお返しクリスマスプレゼント。

 これは嬉しい。何だろう。受け取った紙袋の包装を取り、中身を取り出した。


「手袋だ!」


 この前片方失くしちゃって、どうしようか悩んでたんだよね。

 しかも……これ手編みじゃないか。さっそく手にはめてみる。


「すごい……イニシャルまで入ってる」

「寒そうにしてたので作ってみました。手……合いますか」

「合う、合う! すごい暖かいよ、ありがとう!」


 月夜は嬉しそうに体を竦めた。暖かいな……。手編みなんてもらったの初めてだよ。


「お兄ちゃんにだって作ったことないんですよ。……その、あの……太陽さんが初めてなんです」

「ぐふっ」


 月夜は頬を紅くして手で顔を覆っている。照れているのが見て分かる。

 何てかわいい子なんだ。そのいじらしさに鼻血が出そう。


「失くしちゃ駄目ですよ!」

「う、努力します」


 失くさないような方法を考えないと……失くすと月夜に怒られてるじゃすまないかもしれないな……。

 僕は手袋をつけたまま、月夜のスマホで写真を撮られ……ほくほく顔の月夜にまた癒されるのであった。


「ちょっと自然公園の方に寄っていきませんか」

「ああ……」

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