080 仲直り

 あのお泊り騒動から時は過ぎ。いろんな感情が渦巻きながらも期末テストが開始された。

 結果はなんと過去最高の18位。遮二無二勉学に励んだ結果なのかもしれない。ちなみに星矢はまた満点取ってた。

 あいつ直前までバイトしてるのに何でそんな点数取れるんだ。


「うーん、やっぱり3位より上は壁があるのよねぇ」

「水里さんは5位だっけ」


 期末テスト順位発表後の登校日。最近は1年生組と2年生組が分かれて登校している。

 原因はもはや言うまでもない……。

 2年特進科はちょっとレベルが高すぎるね。星矢と九土さんが基本満点、点数的には2位だけど、3位の弓崎さんがほぼ満点で悔しい顔をしている。

 水里さんも全科目9割近く取ってるけど、さすがに無理らしい。ちなみに僕は平均点ぐらいです。こいつらの成績がおかしいんだよ。


「成績の話はもういい。いつもと変わらん。それより……あの雰囲気は何とかならないのか」

「だって太陽くん」

「うっ」


 お泊り騒動からは1週間以上経過し、未だ僕は月夜と話ができていない。

 すでにあの時の話はグループ関係者全員に伝わっていた。

 グループメンバー会うたびにいろいろと言われる。どうにも仲に良い同性は仲間意識が強いらしくて、異性に厳しい。


「月夜ちゃんの誘惑から逃げた太陽氏トイレでイく」

「その言い方。あと絶対盛ってるよね」


 水里さんが亜麻色の髪を振りながらうきうきで言葉を繋げる。


「まぁ今回の話を拡散するのはちょっとどうかと思ったけどね」


 グループのメンバーに触れ回ったのはスピーカー女の異名を持つこの水里さんではなかったというのか。


「じゃあ、誰がみんなに回したの?」

「私は悪いと思ってたんだけど、手が勝手にスマホいじってた」

「この人何言ってるの」


 ごめーんと可愛く舌を出す水里さん、かわいいが僕の好みではないのでイラっとくるのが強い。

 それにしてもどうしたものか。


「でも月夜ちゃんもちょっとやりすぎたよね」

「なぁ星矢。何とかならないのか?」

「軽く叱ってみたがうざいって怒られた。あんな子じゃなかったのにな」

「どんな風に叱ったんだよ」

「え、相手を誘惑する場合はちゃんと生理周期と排卵期を説明してから」

「星矢くんはそれはやばいよ……」


 水里さんの言うとおりやばいな。妹じゃなきゃ、ってか妹でもセクハラだろうに。


「だが妊娠したらどうする。産むにしろ、堕胎するにしろ神凪家の財政に大きなダメージがいくのは紛れもない」

「水里さんが引いてるからやめよう、な!」


 実際問題として大事なのかもしれないけどそれをこの場で言うことじゃない。

 星矢も相当ズレているのは知っていたが……こりゃ頼りにはならなさそうだ。


「太陽くんは月夜ちゃんと仲直りしたいんだよね」

「喧嘩してるわけじゃないんだが……。でもそうだね、今まで通り……それ以上は望まないよ」

「この水里さんが一肌を脱いであげよう。ふふ、褒めてくれてかまわんのだよ」

「グループに即拡散してややこしくしたくせに自覚ないのかよ」


 何で僕の周囲ってこんなんばっかなの。

 心配してくれている心意気だけはありがたく受け取ろう。



 ◇◇◇



 放課後……陸上部の部活に月夜は現れなかった。やはり気まずいのだろうか。

 こういう時どうしたら元に戻れるのだろうか。

 自分はことなかれ主義なのでケンカってほとんどしたことないんだよな。まぁケンカじゃないんだけど。

 思わず息を吐いて、校門から出ると……僕の前に1人の少女が立ちふさがった。


「月夜……」


 美麗で通りかかる人々から注目を集める少女こそ……僕がずっと話をしたくて待ち望んでいた相手だった。

 月夜は目を泳がせており、言葉を出そうとしているのだろうが、結局言えず黙り込んでしまう。


「……」

「帰ろうか」


 月夜はこくんと頷いた。

 いつもの通学路であればあっという間に到着するので、少し時間のかかる自然公園を通るルートを選択する。

 月夜は黙ったまま……僕の後ろをついていく。

 何を話せばいいんだろうか……。謝る? 何について謝るんだろう。誘惑に引っかからずごめんなさい。それこそ失礼じゃないか。

 僕はすっと息を吐いた。


「あの晩……月夜が教えてくれたおかげでテストで初めて20番台を切れたよ、ありがとう」

「あ……」


 謝るのも怒るのも違う。今、この場で言えることはありがとうということだ。

 結局は話のきっかけが必要だったんだ。僕も月夜も……。


「ごめんなさい……。私、太陽さんにずっと失礼なことをして……でも何て話せばいいか分からなくて」


 失礼なこと……? あの晩のことなら僕にとって良いことしかなかったんだけど……。

 それを言うとこじれそうなのでやめておこう。


「ずっと話しかけられなくて……みんなにも迷惑かけてすみませんでした」


 月夜は大きく頭を下げた。栗色の髪がふわっと下がるほど大きく、大きく頭を下げた。


「もういいよ。こうやって今まで通り話せるんなら……ね」

「で、でも……」


 月夜の気が晴れないだろう。じゃああの時の続きをしよう……なんて言えないのがつらい。

 この流れだったらこれしかないか。申し訳なさに表情をしかめている月夜に声をかける。


「じゃあ、今度のクリスマスイブにクリパがあるじゃないか」

「は、はい」


 九土さん主催の九土原家で行う豪華なクリスマスパーティだ。星矢に対する抜け駆け禁止の側面が強いのだが……グループのみんなが誘われている。


「プレゼント交換あるだろ。だからさ、昼ぐらいに2人で集まって……選ぶの……手伝ってくれないかな」

「え?」

「それで本当に仲直りだ。どうかな」

「……はい!」


 ようやく月夜の顔に笑顔が戻ったような気がした。

 そうだ。この顔が視たかったんだ。悲しそうな顔も不安そうな顔もいらない。月夜の笑顔を僕は見たい。


 月夜との距離も元に戻り、帰りはこれまで通りの話をする。これで陸上部の方も、朝の登校も以前通りだろう。

 僕達は神凪の家の前に到着した。


「またメールで時間は連絡するよ」

「はい……あの……太陽さん、1ついいですか」


 月夜は言いづらそうに、両手を下に組んでもじもじし始めた。

 頬を紅く染めている。月夜は目を瞑って声を出した。


「あの夜はやりすぎたというか……その……私をえっちな子だとは思わないでください!」

「ブフッ!」

「それじゃ!!」


 月夜はそのまま階段を駆け上がり、家の中に入っていってしまった。

 多分だけど……月夜がずっとずっと一番言いたかったのは今の言葉なのかもしれない。

 健気というか……何というか。面白い女の子だな……本当に。


 さてとクリスマスパーティまであと少しか……。

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