068 体育祭③

『文化部対抗リレー開始した。第一走者は100m。1位はヤロウだけの研究部はやっぱり速い、2位は美術部。バトンが筆ってのは便利だな。3位は家庭科部、魔女っ子がんばれ! 4位は映画研究会だ』


 瓜原さんは元々運動が苦手であるから仕方ない。そのための第一走者だしね。2番、3番目、4番目がクソほど速いから大丈夫だ。

 魔法使えーなんて言葉も飛んでくる。使えたら妨害になるんじゃないのか。

 100mなんてあっという間、そのまま第二走者へと近づく。

 第二走者の世良さんは麻のマントを豪快に吹き飛ばした。現れた姿は……ビキニアーマー!?


『うおおおおおお! 第二走者は1年生世良海香せらうみかだ。水泳のスペシャリストとして校内での有名人! 何という色っぽさ……! すげぇ』


 男性陣から物凄い盛り上がりが見てとれる。あの子、スタイルいいもんな。胸はしっかり出ていて、腰回りはシュっとしている。運動部体型という奴かな。

 実質水着で走るようなもんだからね、世良さん的に恥ずかしさは欠片もないのだろう。彼女自身が目立ちたがりやで歓声を力に変えるタイプだ。

 世良さんは女騎士という扱いらしい。ゴテゴテの剣を腰にさしている。


 3位で瓜原さんから世良さんにバトンがわたされた。魔女っ娘からエロイ女騎士に繋ぐ。

 世良さんは猛スピードで走りだした。さすが体育科の女の子。運動能力高いな。2位の美術部を抜き、1位の研究部に近づく。相手が男でも関係なし。どんどんと近づく。

 この感じだと次のバトンで抜けそうだ。


 第三走者は神凪月夜。ミスコン2位だが事前投票では圧倒的7割の支持を得ていた。麻マント着てても顔だけですでにかわいい。栗色の髪が流れて、マジでかわいい。

 世良さんが近づいているのを見て、月夜も麻マントを取り外した。 ウェディングドレス!?


『こ、これは……。 も、申し訳ない。あまりの可憐さに言葉を失ってしまった。家庭科部第三走者は学園のかぐや姫、神凪月夜さん。この学園で知らない者はいない最高に美しい女の子だ』


 文化祭の時の十二単じゅうにひとえっぽい衣装も似合っていたけど、この白のドレスもすごいな。走りやすいように加工され、スパッツのような形になっているが逆にその白い生足が男達を熱狂させる。

 役どころは当然お姫様。ウエディングっぽい白のドレスなんだろう。月夜といえばお姫様というイメージになってしまったな。本人に清純なイメージがあるから仕方ないよな。

 携帯を持っている学生がずっと写真を撮っている。外部の保護者も月夜の美しさに魅せられて皆カメラを向けている。

 月夜は慌てず、女騎士の恰好の世良さんからバトンをもらって走り始めた。


『第三走者は200m、だがはや~い! 家庭科部独走です! あっという間に2位と差をつけ始めた』


 月夜自身運動能力が高く、体育科の生徒に負けていない。文化部の連中であればごぼう抜きだろう。問題はドレス用の靴でちゃんと走れるのかどうかだ。

 観客から月夜を応援する声がひっきりなしに聞こえる。あれか、例の非公式ファンクラブってやつかな。校内で半分以上の男子が所属しているという噂もある。

 顧問役の先生もいて、管理者がバカ兄貴という話もあるのだ。バカだな。

 あっという間に150mを過ぎて、第四走者神凪星矢が準備をする。すでに一位の状態で星矢が走るから家庭科部の優勝はほぼ確定だ。

 あとはどこまで観客を盛り上げられるかだね。

 星矢は麻のマントを取り外した。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 すっげー黄色い声援。星矢の女性ファンが発狂している。

 星矢は白のタキシードを着ていた。文化祭の時が星の騎士でダークなイメージだったが、今回はまさに星の王子様その者だろう。

 家庭科部ってほんとすごいな。タキシードじゃないんだろうけど、タキシードに見えるんだからすごい。


『第四走者はミスターコンテスト1位 神凪星矢だ! まさに星の王子様に相応しい恰好だ。イケメンすぎて嫉妬しちまうぜ!』


 星矢は月夜からバトンを受け取り、そのまま月夜の手を取り一緒に走り始めた。


『おおっと! 王子が姫の手を掴んで走っていく! 美男美女の兄妹、場の雰囲気が盛り上がるぞぉ!』 


 もはや2位以下の解説全然してないな。これが一番盛り上がるんだからいいんだろうけどね。

 星矢は月夜の手を引っ張りどんどん先へ進む。これでよっぽどのことがない限り2位以下に転落することはないだろう。

 いくら僕の視界が悪いといっても弱くても陸上部。負けはしないよ。

 さてと……準備をしよう。僕も麻のマントを取り外した。


『家庭科部最終走者は闇の騎士だ……誰なんだ! 何者だ!? これは美しい兄妹の絆にどんな影響をもたらすのか!』


 僕の名前は出さなかったんだ。いや、正解かもしれない。瓜原さんはともかく、それ以外の人気の面々の後に誰だよ、こいつってレベルの僕の名前じゃ盛り下がるだろう。

 しかし、闇の騎士か。ちょっと悪役としてテンション上がるじゃないか。

 僕は事前にもらっていたハリボテの黒の剣を抜いて、バトンを受け取る場所で待つ。星矢と月夜がやってきた。


「いくぞ」

「あいよ」


 星矢がリレーゾーンを通過する。普通だったら僕も走ってバトンをもらうんだけど、今回は違う。

 星矢が月夜の手を放し、バトンを僕に渡す。そして僕は黒の剣で星矢を刺した。手と脇腹の間につっこんだんだけどね。

 刺された星矢はそのまま、地面に倒れる。


「きゃああああああああああああ!」


 悲しみの声援が場を包み込んだ。そこまで悲しむ!? みんな楽しんでるんだな。


「月夜、行くよ!」

「はい!」


 僕は月夜の手を掴み、アンカーとして走り出す。

 お姫様はもらったぜ!

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