067 体育祭②

 応援合戦は赤組の団長VS白組の団長による副団長争奪戦が何より盛り上がる形となった。星矢はいつのまにヒロインになったのやら。

 このあたりの話はいつかどこかで語りたいなと思う。


 さて、文化部による部活動対抗リレー戦だ。出場は4チーム、家庭科部、研究部、美術部、映画研究会だ。

 1位のチームは部活動宣伝としてトラック1周分を凱旋として歩き回ることができる。


 応援合戦後、早々に僕は家庭科部の先輩に連行された。 更衣室で例の真っ黒な騎士甲冑もどきのスーツを着せられる。兜のような覆面も付属しており、顔を出すこともできない。

 鼻の頭がかゆくなったらどうしよう……。鎧姿を隠すためにさらに大きなマントのようなものを被らされた。覆面は仕方ないけど動きづらい、視界が悪い。

 今回僕はアンカーだ。前に星矢と月夜が走るから滅多なことで負けないと思うが……陸上部なのに負けたら恥ずかしいよな。

 でもこの覆面、視界が悪すぎて全力で走ったら転びそうなんだけど。


 運動場に戻ったら知り合い4人が麻のようなマントを来て集合していた。この集団傍から見るとちょっとやばいな。


「お前の恰好が一番面白いな」

「視界悪すぎだぞ、この覆面。僕もその麻のマントみたいなの被っているのか。ちゃんと走れるのかな」

「太陽さん、大丈夫ですか?」

「転ばないように何とかしてみるよ」


 すでに僕の覆面が一部で話題になっている。参加者に星矢や月夜がいる時点で家庭科部が何やらとんでもないことしてくると思われ、トラックの周囲に人が集まり始めた。

 5人とも麻のマント着てるからね。一緒に走る他の部活動の走者から怪訝な顔をされる。


 走者は瓜原さん→世良さん→月夜→星矢→僕だ。この走順については衣装の役柄で決めたらしい。僕はアンカーってのがガラじゃないんだけどな。


「がんばれ~木乃莉」

「あたしがぶっ飛ばしてあげるからさ!」

「やっぱりこの恰好恥ずかしいよ……」


 瓜原さんはやはり気乗りしていないようだ。

 月夜や世良さんと違って表に出るような子じゃないからなぁ。

 第一走者に準備するよう連絡がいく。


「木乃莉……気を張らずのんびり走ってこい」

「星矢さん……」


 星矢は柔和な笑みで木乃莉さんの頭を優しく撫でる。瓜原さんは嬉しそうに頬を染めた。

 あいつあんなことするからモテ続けちゃうんだろうな。でも星矢なりの励ましなのだろう。

 瓜原さんも覚悟を決めたようでレーンの方へ歩いていく


『さぁ始まりました。部活動対抗リレー! 文化部代表及び運動部1種、2種で分かれたこの種目……前座と思われた文化部代表だがいきなり家庭科部がぶっこんで来たぞ!」


 恒宙こうちゅう学園名物放送部部長による実況解説。さっきの応援合戦の時もペラペラ舌がまわってたなぁ。

 このリレーをさらに盛り上げるカンフル剤みたいなものか。さっきから観客の声援がすごいんだよな。


『出場の部は家庭科部、研究部、美術部、映画研究会の4チームだ。おいおい、家庭科部全員助っ人じゃねぇのか! でもミスター・恒宙こうちゅう神凪星矢は家庭科部なのか。イケメンの奥に潜む家庭的な闇、是非とも見せてくれ』


「家庭的な闇ってなんだ」

「ノリと勢いで喋ってるから気にしない方がいいんじゃない」


 星矢とそんな話を続ける。

 第1、第2走者が100m 3,4,5走者が200m走る。

 今回僕達は家庭科部の用意した衣装を着て、リレーでバトンを繋ぐことで【物語】ができるようになる筋書きだ。最終走者である僕も何をすればいいか事前に聞かされている。

 放送部の方にも話を伝えてくれているので盛り上げるためにフォローしてくれるだろう。どちらにしろ神凪兄妹が機能すれば盛り上がること間違いなしだ。


 瓜原さんは麻のマントを取る。そこに現れたのはとてもめんこい魔女っ子であった。日朝8時のアニメに出てきそうなピンクを基調としたロリータドレス。150センチちょいで童顔の瓜原さんだからよく似合う。

 このような設定で走るというのは聞いていたが僕も衣装を見たのが、初めてだったので感慨深いな。ありゃかわいいわ。


 顧客から歓声が上がる。瓜原さんは恥ずかしそうに体を隠そうとした。


『家庭科部第一走者は1年生瓜原木乃莉さんだ! 愛らしい姿へと変身、かわいいじゃないか! 実にいいぜ!』


 あんなかわいい子、学校にいたっけ。すっげー似合ってるな。神凪さんといつも一緒にいる子だろ。あの子ってあんなにかわいかったんだな。


 口々に賞賛の声が聞こえる。月夜と世良さんの影にずっといたから気づかれていなかったけど、彼女も決して魅力では負けていない。

 本人は嫌がるかもしれないけどこのリレーが終わったら人気が出そうだ。

 そしてさっきから瓜原さんに想いを寄せる男が1人旗をふって応援している。まさに1人応援団。

 瓜原さんはバトンと一緒に魔法のステッキを持っている。魔法使いという設定で彼女は走る。


『さぁ……運命のリレーが今始まる!』


「位置について……ヨーイ!」


 火薬の音が鳴り、4者走り始めた。

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