069 体育祭④

「月夜、行くよ!」

「はい!」


 僕は月夜の手を掴み、アンカーとして走り出す。

 視界は悪いが何とかなるかな。


『おおっと! 王子様が闇の騎士に斬られて、姫を奪われてしまったぞ。闇の騎士、何てことをするんだ!』

「BOOOOOOOOO!!」


 みんなノリノリでブーイングを飛ばす。だいたいこの後のオチは想像できるもんだよ。正義は必ず勝つのだから。さて、あと100mってとこか。


「はぁ……はぁ……」

「月夜!?」


 月夜の息遣いがかなり荒くなっている。そんなにスピードは出していないはずだけど……。

 そ、そうか! 月夜はすでに400m走ってるんだった。いくら運動能力が高くて、体力があるといっても限度がある。

 僕や星矢のスピードについていくのは女の子では厳しい。くそっ、何でもっと早く気づかなかった。

 僕は速度を緩める。これぐらいなら2位になることもない。


「あっ!」

「!?」


 月夜の足がもつれた。思わず前に転びそうになったため急いで引っ張ってる手を肩に抱えて、バランスを崩した月夜を持ち上げた。


「え!? 太陽さん」


 これじゃ持ちづらい。ならばっと、月夜の背中から腕を回して体を支える、ヒザの下に腕を差し入れて足を支える。これなら運べる!


『おお! 闇の騎士、姫をお姫様だっこしたぁぁ! いい奴じゃねぇか!』


 悪役っぽくはないけど、月夜を転ばせるわけにはいかないからね。

 急いで走っているとはいえ、月夜はやっぱ軽いな。ふと顔を見るとうるんだ瞳と恥ずかしそうに頬を赤らめた小顔が目に入り、思わず鼻血が出そうになる。

 外せない覆面のまま鼻血なんて出したらやばい。

 ウェディングドレスのようなこの白いドレスを着た月夜は尋常ないレベルの可愛さだった。肩は空いてるし、胸元も緩いし……ずっと見続けたい。

 そのまま月夜を運び、ゴール直前で王子様、魔法使い、女騎士の3人の姿が見える。


『魔法使いの力によって王子がよみがえる!』


 瓜原さんが運動場で倒れた星矢に手を翳し、星矢は生き返ったように立ち上がる。


『女騎士は闇の騎士を討つため、王子に剣を渡した!』


 世良さんは持っていた剣を星矢に渡した。あの剣、ライトもつけてるんだな。まるで魔法の剣のように光りだす。日中だから見えづらいけど。

 そして僕は月夜を背負ったまま、ゴールテープを通過する。見事1位!

 最後の演目をやるために月夜を降ろして、仁王立ちした。そして星の王子がゆっくりと近づき、光る剣で闇の騎士を斬りつけた。


「やられたー」


 僕はわざとらしく、走行レーンから外れた所で倒れた。

 見事、星の王子は闇の騎士を倒しましたとさ。


『王子の一撃が闇の騎士を討つ! 王子は姫を取り返し、世界は救われたのだった! ブラボーーーー!』

「ワアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 お約束の喜劇だけど、みんな大満足だ。さてと1位となったことで凱旋でゆっくりトラック1周を歩くことができる。

 星矢も月夜の負担に気づいたようで、お姫様だっこで月夜を持ち上げた。美男美女の揃い踏みでカメラのシャッター音が止まない。


「神凪さああああああああああん!」

「月夜ちゃんかわいいいいいい!」

「神凪兄妹ぃぃぃぃぃぃ!」

「素敵ぃぃぃぃ!」


 女騎士の世良さんと魔法使いの瓜原さんも2人手を振りながらトラックをまわっていく。


「海ちゃあああああああん!」

「世良さ~~~~ん!」


「木乃莉さ~~~~ん、最高だぁああああああああ!」


 誰よりもでっかい声で1人の男が瓜原さんを褒めちぎってる。やべぇなあいつ。さすがの瓜原さんも世良さんの後ろに隠れてしまった。

 僕も立ち上がり、みんなの後ろを追っていく。


「闇の騎士ーーー! よかったぞぉぉぉ!」

「おれは悪の方が好きだぞーーーーー!」


 お、おお! なんだかんだ悪くないってことかな。まぁみんな高校生だし、そういうものなのかもしれない。

 前を歩いていると星矢が止まって、こちらを向いている。担がれた月夜も兄である星矢の名前を呼んでいる。


 王子の星矢に抱っこされる月夜。僕は2人の側に寄る。

 何だろうか。星矢はまっすぐに僕を見て、口を開く。

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