062 学園祭2日目①
うぅ……全然昨日は眠れなかったな。
あれからだいぶ悶々としたし、昨日は本当に大変だった。
まだ朝7時過ぎである。さすがにまだ早すぎるがやることがないので早々に神凪家へ行った。
合鍵を使って中へ入る。まだ星矢も月夜も寝ていることだろう。
「うお!」
「あっ」
入ってすぐリビングの椅子に月夜が座っていた。
「お、おはようございます」
「お、おはよう」
何だかぎくしゃくというか……距離が掴みにくい。
【あの告白】の直後から完全に眠ってしまった月夜を背負って何とか神凪家まで到着した。
合鍵を使って中に入って、星矢と水里さんに連絡だけしてベッドに寝かせて僕は帰った。
さすがに服を脱がすわけにはいかなかったので悪いけど制服のまま降ろさせてもらった。えっちなことは何もしてないよ!
月夜は制服のまま……いや、違いは髪がまだふわりとしていて、シャンプーのかおりがする。朝シャワーを浴びてたんだろうな。
風呂上りと思うと何か変な感じになるな。
「今日は起きるのが早いね」
「昨日寝るのが早すぎて……明け方に目が覚めちゃったんです。太陽さんこそ早いじゃないですか」
「僕も似たような感じだよ」
月夜は立ち上がって、通学カバンを手に取った。
「遠回りして学校に行きませんか」
水里さんや世良さん、瓜原さんがいるから星矢が寝坊することはないと思うし、今日はいいだろう。
僕と月夜はいつもと違った通学路を歩いていく。月夜はどこまで覚えてるんだろうか。
抱きしめた所まで覚えていたらかなり恥ずかしいのだが。
「今日はそっちが観覧日なんですよね」
「そうだね。特に何もないから絶対劇を見にいくよ」
「今回相当力を入れましたからね。主演の2人の演技が見ものですね」
「月夜のお姫様はどうなの? 僕はそっちの方が気になるな」
月夜は顔を赤らめてもう!っと可愛らしく口をつぐんだ。主演は星矢と
ミスター・コンの1位、2位の男がミスコン2位の女の子の心を奪おうとする。後は文芸部の瓜原さんの脚本になるのか。面白くなりそうだ。
2人でやんわりと会話しつつ、朝の公園を通っていたら月夜の挙動が少し変わってきた。
何かを探っているような……。月夜は僕の方を向く。
「た、太陽さん……昨日のこと……」
「昨日……どうしたの?」
やはり触れてきた。確かにこのまま歩くと学校に到着してしまう。
月夜は少し焦ったような顔立ちで問いかける。
「昨日の帰り……道路で歩いている時くらいからもう記憶が全然ないんですけど……私何かしましたか?」
「本当に何も覚えていないの?」
月夜は遠慮がちに頷いた。
そうか……そこから記憶がないのか。
「気づいたら家でベッドに寝かされているし、制服脱がされて、下着姿のままで」
「ぶほっ! ちょっと待って。ベッドに運んだのは僕だけど、何もしてないよ! 水里さんに後のお願いはしたけど!」
「そ、そうですか。よかった……」
何でそんな中途半端なことをするんだ……焦る。
月夜からしたら朝起きたらびっくりするよね……。脱がされてる時に起きなかった方もそうだけど。
でも記憶がないことがよかったのか悪かったのか……分からない。
「夢なのか……現実なのか分からないんですけど」
月夜は目を伏せて、顔を紅くし始めた。耳まで真っ赤になっている。
「何か公園のベンチで太陽さんに抱きしめられてる……夢を見たんです。なんか……鮮明で」
月夜は1つ1つ言葉をかみしめるように話す。このあたりの記憶は本当に曖昧なんだな。
そうだよって答えたら月夜はどんな顔をするのだろう。これ以上になるくらい恥ずかしがるのだろうか。
僕は月夜に微笑んで言葉を返す。
「何もなかった。昨日は何もなかったよ」
「そ、そうですか。やっぱり夢だったのかなぁ」
月夜の好きが親愛ではなく恋であることを僕は少し前から感じ取っていた。
月夜と一緒に行ったハイキングでのこと、学園祭の準備から……昨日のオムライスの件まで……親愛では到底片付けられない。
僕の何に惹かれたのか見当もつかないけど……月夜はたぶん、僕に恋をしているんだろう。恥ずかしくてそれを口に出すことなんてできないけど。
もし、このまま付き合ってほしいと言えば、多分恋人関係になれるのかもしれない。
でも、僕は月夜に絶対告白をしない。
僕は月夜の好意を受けるわけにはいかない。
僕はあの時から……心の中の想いは変わらない。
だから何もなかった。昨日は何もなかったんだ。今のままでいいんだ。
「ふぅ……」
僕と月夜はそのまま学校へ登校した。
学園祭2日目が始まる。
……その選択が後に大きな爆発の始まりになってしまうことをその時の僕は知るはずもなかった。
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