063 学園祭2日目②

 恒宙こうちゅう学園祭2日目が始まる。

 今日の目玉は各クラスの出し物もそうだが、最後のキャンプファイヤーだろう。

 交際してなければ、男女ペアで仲睦まじく踊ることもできない。親友の神凪星矢かみなぎせいやは誰と踊るのか。

 いや、肉食の女子軍がいるから全員と踊らされるかも。揉めるのは順番だけか……。


 僕と一緒に踊ってくれる女子など存在しない。いや、そんなことなかった。多分お願いすれば喜んで踊ってくれる女の子がいた。

 でも、さすがに学年1位、いやミスコンで負けたから学年2位になるのか。彼女を構内で誘うのは無理だろう。彼女の周囲はいつだって人が溢れている。


 僕と星矢は観覧日ということで2人一緒にいる。


「昨日、月夜に付き添ってくれて助かった」

「ああ、問題ないよ。そっちは楽しめた?」


 昨日は遅くまでミスタ及びミス恒宙こうちゅうのお祝い会をやってたらしい。

 クラス全員に疲れが残ってるような雰囲気があった。


「クラスの奴らとあれだけ話したのは初めてだったな」


 普段は無愛想を振りまいてるからな。でもこれがきっかけで星矢ももっとクラスになじめるようになればいいんだけど。

 水里さんはもう男子、女子問わずに囲まれて、話題の中心だ。


「しかし……疲れる」


 この言葉は昨日のことで疲れたのではない。今まさに疲れているということだ。

 星矢は月夜達の劇の参加までの6時間、フリーであったがそれを狙う肉食の女達がいた。まさにハーレムという奴は恐ろしい。

 水里さん、北条さん、弓崎さん、九土さん、ひーちゃんで1人1時間の星矢とデートする権利を争っていたのだ

 そして残る1時間をどうするかという話で……。女5人を前にして僕にこう言った。


「太陽……おまえと一緒にいたい」


 何て情熱的な告白なんだろうか。思わず後ずさって引いてしまったわ。

 見事僕は星矢のハーレムの仲間入りとなったのだ。


「水里さんから最大の敵は太陽くんだね。って真っ黒な瞳で言われた時は闇討ちされるんじゃないかと思ったよ」

「そうか、よかったじゃないか」

「笑顔でその回答はおかしい」


 この1時間は休憩ってことで模擬店の前の椅子で2人でずっと駄弁っていた。

 だけど1時間が過ぎ、星矢はあっという間に次の女の子に連行されることになる。

 あいつの人生って大変だよなぁ。女難の相でもあるんだろうか。

 僕は他の男友達と合流しつつ、月夜のクラスの劇の時間まで学園祭を楽しむ。

 劇が始まる2時間前……スマホに着信が入った。


「着信……世良さんからか?」



 ◇◇◇



 学園祭2日目、体育館の16時30分の枠。

 一番最後の枠ということで校内に残るほとんどの生徒が体育館に集結していた。

 外部のお客様もかなり多く、体育館には多数の椅子が並べられていたが、もはや座ることすらできないほどいっぱいだった。

 1年生の劇がこの一番最後の枠を勝ちとることは奇跡に近い。基本は力を入れまくった3年生のクラスがやることが多い。

 この枠の調整は生徒会が行っているのでそれだけの価値があると判断したんだろう。


 事前に校内の掲示板には「2人の騎士と月の姫」そのようなタイトルでチラシが張ってあった。

 もちろん僕達のクラスの喫茶店でも宣伝としてお客さんにチラシを渡していた。

 チラシには1人の騎士と姫の写真を載せていた。ミスタコン2位の遊佐天とミスコン2位の神凪月夜の演者の姿は集客効果としては凄まじいもんだ。


 舞台の幕が上がる。

 語り部によって世界観が伝えられる。


『戦争をしている2つの国。星の国と天の国。その国の間にある月の国には世界でもっとも美しいと言われた姫がいた』


 10分の劇だからそんなに大それたものはできない。どこかで見た物語となるだろう。しかし、そんなありきたりの物語も演者の力で変わるものだ。


「ああ、星の王子、天の王子……どうして変わってしまったの。幼き頃……あんなに一緒だったのに」


 月夜が演じる月の姫がライトアップされる。


「おおおおおおお!」


 観客から月夜の美しさを称える歓声が聞こえる。


 家庭科部の作った月夜の衣装は見事な出来栄えであった。和を意識した、十二単じゅうにひとえっぽい衣装だ。まさしく今の月夜はかぐや姫といってもおかしくない。月の姫は民に想いを語り掛ける。そのあまりの美しさに観客全員が息を飲んだ。

 物語の掴みは良好……。昨日の疲れも残っていない。月の姫は観客からもっとも近い位置へ近づき……笑う。その笑顔に皆が魅了された。


『彼は天の王子。月の姫を妻とし、世界への革命の足掛かりとすることを誓う』


「僕の名は天の王子。月の姫よ……僕と共に歩き革命の象徴となれ!」


『白の法衣を着た天の王子は剣を下げ地に誓う』


 1年生の女子に絶大な人気を誇る遊佐天は観客へアピールした。さすがミスターコン2位。場の空気を一気に持ってったな。

 観客から黄色の声援が続く。でも次のサプライズに比べたらまだ小さい。


「我の名は星の王子。月の姫をめとり、そらの王となる!」


『黒のマントを着た星の王子は剣を下げ地に誓う』


 甘いマスクと理想な体格、極めて端正な顔立ちの神凪星矢の存在に女性陣の筆頭に大きな声が響く。

 何か知り合いの声も聞こえた気がしたが……あまり考えないようにしよう。1年生の劇にサプライズ出演するとは思っておらず、かなりの観客がざわついている。


「いつも……わたくしを助けてくれる旅の方。あなたは何者なの」

「姫よ……あなたが困った時、私が現れるだろう。自分の気持ちに素直になれ」


 今作のキーキャラクターらしい……旅人。顔を隠しているが演じているのは世良さんだ。何度も練習したのだろう。その言葉に淀みはない。


 そして舞台はクライマックスとなる。星の王子と天の王子との決戦が始まった。

 星の王子と天の王子による壮絶な殺陣だ。2人とも上手いなぁ。月の姫が2人の間に立ちふさがった。


『月の姫は……自らの命を使い……悲しみの雨を降らせ……2人を正気に戻したのだ』


「我は……我の夢は月の姫が安心して生きていける優しき王ではなかったのか」


『星の王子は肩を降ろす』


「僕は……ただ月の姫を守りたかっただけなんだ。姫には笑ってほしっただけなのに」


『天の王子は顔を伏せる。2人の王子の目の前には……永遠の眠りにつく姫。そこへ旅人は現れた』


「月の姫よ……私の力を受け取れ!」


『なんと旅人の力により月の姫は蘇った。そして2つの国は争いを終えた。王子たちは二度と月の姫を悲しませないため手を取り合ったのだ』


「戦争が終わり、2人の王子はそれぞれの道へ進みました。しかしわたくしの心は晴れぬまま」


『月の姫は探す。今度こそ自分の気持ちに素直になるために、ゆえに叫んだ』


「わたくしは今、困っています!」


『月の姫の叫びに旅人は答えた』


「困ったお人だ」

「そうですね。旅人様、いえ……月の騎士様」


『そう、旅人は幼き頃、行方不明となった月の力を持つ騎士であった。姫は幼少の時に騎士に助けられたのだ。彼女は死ぬ淵から蘇った時知った』


「あなたに力を与えて私は正真正銘のただの旅人となりました」

「良いのです旅人様……【振り向いて】わたくしの想いを受け取ってくださいませ!」


 そして……姫は振り向いた騎士の顔を見て……止まった。


「え……ちょ……え、何で……?」


 月の姫こと月夜の目の前には旅人に扮した僕がいたのだ。セリフはマイク超しに世良さんが喋っているし、このシーンが始まるまでは確かに世良さんが旅人の演技をしていた。


 なぜこんなことになったかは2時間前……に遡る。

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