030 月夜と幼稚園②

「月夜ッ!」


 僕は慌てて、月夜の元へ駆け寄り、体いっぱいで包み込み月夜を守る。頭上へ向け大量のダンボールが降ってきた。

 頭や背中にダンボールの山がズキズキと落ちてくる。たまに固いのがあって無性に痛い。

 地震も止み、落ちてくる物のもなくなった。僕はまわりのものを飛ばして、下にいた月夜に聞く。


「ケガはないか!?」

「……はい、大丈夫です」

「あ~よかったぁ。月夜が無事で本当によかったよ」

「全然よくない! 何考えてるんですか!」


 月夜は立ち上がり、強い剣幕で詰め寄る。


「無事だったんだから怒らなくても」

「無事じゃないじゃないですか、太陽さん、頭切ってるし……呻き声上げてたじゃないですか!」

「多少は痛かったけど、カスリ傷だよ」


 本当に打撲とかあったら問題だけど、衝撃時の痛みだけで追加で痛む所はない。おデコの傷なんてばんそうこう付けていれば問題ない。

 月夜にケガはなかったし、僕的には完璧な対応だと思ったんだけど、月夜は瞳に涙を浮かべ、ぼろぼろと泣き出してしまった。


「もう…‥、あの時みたいなことをしないでください……。太陽さんにまた何かあったら……私」

「ごめん……」


 7月下旬にあったあの時のことを言っているのだろう。僕が入院してしまった事件。あの件があってから僕と月夜は急速的に親密になった。

 だけど……月夜にとってあの事件はトラウマで傷はまだ癒えていないのかもしれない。


「月夜……お願いだ、泣かないで。僕は君の悲しい顔は見たくない」

「ひっく……太陽さんが悪くないのは……分かってます。ひっく……でももっと自分を大切にして」


「地震大丈夫だった!? ちょ、どうしたの!?」


 いったん、月夜は落ち着かせることになり、僕は満里奈先生に連れていかれて職員室へと行った。

 満里奈先生は救急箱を開き、ばんそうこうをおデコに貼ってくれる。


「本当に他にケガはないのよね?」

「はい、元気そのものですよ。最近鍛えておいてよかったです」

「本当に本当よね?」

「え、ええ」

「未成年にケガさせたって知られると私の夜のビールが消失することになるんだけど本当に大丈夫よね?」


 なんという質問をしてくるんだこの人。美人だけと相当腹黒いのかもしれない。あの倉庫いろいろグレーそうだし、管理及び監督責任ってやつだろうか。

 実際に痛みはないし、何の問題もない。ケガしたとかウソでも言うと後々めんどくさくなりそうだし言わないでおこう。

 治療中も先生はちょくちょく月夜の所に顔を見にいっていた。どうやら今は落ち着いて、子供達の所にいるようだ。


「君と月夜ちゃんって付き合ってるわけではないのよね」

「僕と月夜が釣り合うわけじゃないですか」

「30歳の私からすれば子供の釣り合いとか心底どうでもいいし、本人の気持ちだと思うけどそこはいいわ」


 30歳!? 意外に年いってるのな……それにしてもこの先生、絶対闇深いな。

 美人なのに多分……過去にいろいろあったに違いない。満里奈先生は息をついた。


「月夜ちゃんにも話は聞いたけどね。一つだけサービスしてあげる」

「え?」

「あの荷物整理は確かに男手が必要だったわ。だから月夜ちゃんに知り合いの男性を呼んでもらうように頼んだの。そしたらね、なんて言ったと思う?」


 月夜の考えてることが想像できず、僕は答えることができない。


「1人だけ誰よりも優しく、尊敬できる先輩……友人がいます。その人に頼んでみますだって。んだよ甘酸っぱいなァーーー!」


 月夜が……僕のことをそんな風に思ってたのか。又聞きだから本当かどうかは分からないけど……照れる。


「私だって高校生の時頑張ってればこの年になるまで喪女にならずにすんだのに……少年!」

「は、はい! って先生酒飲んでないですよね」

「若い時代は今しかないのよ。御託並べる暇あったら話し合いなさい」

「あ……はい」

「あー、もう今世やだ。トラックにひかれて、異世界転生して孤児院でも経営したいわ!」


 なるほど、独身を拗らせるってのはこういうことを言うんだな。

 満里奈先生は放っておいて月夜が子供達と遊んでいる所に立ち寄った。

 教室で7人の子供達と一緒にいるようだ。月夜はピアノを弾いていた。そういえば小さい頃習ってたことがあるって言ってたな。

 この前はカラオケ行くの恥ずかしがってたけど綺麗な声だし、上手いじゃないか。


 子供達と童謡のメロディを弾きつつ、一緒に歌う様子に僕は安堵を覚え……その月夜の様子に心が惹かれる。

 僕はその歌が終わるまでその賑やかな空間を見守った。


「あ、太陽さん」


 曲が終わり、扉の前にいる僕の存在に気づいたようだ。

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