029 月夜と幼稚園①

 夏期講習も終わり、夏休み最後の1週間となる。

 2学期の始業式の間に1回全校登校日がある以外はお休みだ。星矢様のありがたい教育のおかげで夏休みの宿題も全部終わったし、あとはのほほんとするだけなのだが……心はどこか落ちつかない。


 やっぱ……可愛かったよなあ。

 カメラのデータをスマホに移行し、先日の月夜の写真を日に2,30回は見ている。

 単純に被写体として美しいと思う。美しい物を見るのは当然なのだ。断じてそんないやらしい気持ちはない。ない……ない。


「うお!」


 スマホに急に着信が入り、びくっとする。

 その相手がまたずっと頭に浮かんでいた神凪月夜であったのがびっくりだ。

 通話ONにする。


「もしもし」

『あ、月夜です。今大丈夫ですか?』


 月夜の声は本当に澄んでいるというか心地良いよなぁ。実妹のクソだみ声を聞くたびにげんなりさせられるものだ。

 僕はもちろんOKと伝える。


「今ちょっと人手が足りなくて、もしよかったら……アルバイトしませんか?」



 ーーーーーーーーーーーーーー


 指定された所、県立ひまわり幼稚園の正門前へ到着した。

 すると門の奥から月夜が表れた。学校制服でも私服でもない……ダボっとしたジャージにエプロンを付けており、あまり見慣れない服装に新鮮さを感じる。

 月夜はこの幼稚園の保育補助という形で働いているらしい。知り合いの紹介なのもあって、週に行く回数はそんなに多くない。

 手伝ってほしい時だけ行くという形を取っている。


「太陽さん、来て頂いて本当に助かります」

「小遣いも少なくなってきたからちょうどよかったよ。詳細は……」


 月夜の後ろから同じような服装の女性が現れた。


「満里奈先生、この人が私の知り合いの山田さんです」

「ああ、あなたが噂の……。ふふ、まぁいいわ。じゃあ、月夜ちゃんは子供達をお願いね」

「分かりました!」


 月夜は園舎の方へ行ってしまう。噂とは何だろうか。ロクな噂じゃなきゃいいけどね。

 この人が満里奈先生か。黒髪ロングで綺麗な人だな。20代くらいかな、大人の女性って感じがする。


「じゃあ山田くん、仕事内容伝えるからこっち来てくれる?」

「はい、分かりました」


 仕事内容は端的に言うと荷物整理であった。大きな倉庫にかなりの数のダンボールがあって、その中身を出して、事前に用意した紙に合わせて整理してダンボールに戻していくというもの。

 この真夏でこの仕事をやるのは大変そうだ。着替えは持ってきてるし、汗をかいても問題はない。


「ごめんなさいね。用務員がいるんだけどぎっくり腰やっちゃって、休んでるの。私も月夜ちゃんも預かり保育があるからどうしても手が足りなくてね」


 9月入るまでにやらないといけないらしい。

 これくらいの量なら1人でも何とかなるかな。この倉庫、棚上にまでダンボールがあるじゃないか。こーいうのってよくないんじゃなかったっけ。

 さっそく体操服に着替えてお仕事開始だ。やっぱり体操服は汗をかく作業の時は便利だよな。

 せっせと仕事をしていると月夜がやってきた。


「手が空いたんでお手伝いしますね」

「助かるよ。僕がダンボール降ろすから、月夜は中身の振り分けをお願い」


 1人作業が2人作業になったためかなり捗ってきた。2人でやると早いなぁ。

 余裕も出てきたし世間話も花が咲く。


「アルバイト始めて2,3ヶ月だっけ」

「そうですね。月によって行く日は違いますけどね。でもようやく慣れてきました」


 幼稚園教諭は資格がいるらしいから仕事は本当に小さなことだけとは思うけど、高校生の僕達としては給料以上に社会経験をしておきたい所がある。

 特に月夜はその見た目が美麗すぎるせいで、普通のバイトはできないんだよね。モデルとかが一番なんだろうけど星矢が駄目って言ってるらしい。モデルなんてやったらイケメン男子が寄ってきて大変なことになるから星矢は嫌なのだろう。アイドルの勧誘もよく来るって星矢がグチってたな。

 気持ちはよく分かる。


「将来、幼稚園の先生とか保育士とか考えてるのかな?」

「ちょっと迷いますね。子供がすんごくかわいくて愛らしいのですけど、先生の仕事ぶりを見てると迷ってしまいますね」

「教諭はどこも大変なんだろうね」


 さてとそろそろ棚に大量に詰まれたダンボールを下ろすか。

 それに差し掛かった時……事件が起こった。


「揺れてる?」

「地震か? でも震度は大したことなさそう」


 幼稚園、倉庫全体が揺れている。だが立っていられないとか、そんなレベルじゃないから大したことはないだろう。

 念のため……周囲をってやばい! 棚の上のダンボールが崩れそうになってる。落ちてくる先に月夜がいた。


「月夜ッ!」

「え?」


 僕は慌てて、月夜の元へ駆け寄り、体いっぱいで月夜の体を包み込んだ。頭上へ向け、大量のダンボールが降ってきた。

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