028 月夜とデート⑤
夕方18時前。
閉館時間も近づいてきたため僕と月夜は図書館を出る。
夕方になったこともあり、気温がちょうどよく下がったね。
帰り道、突如月夜が止まる。
「公園を通って帰りませんか?」
再び自然公園。日も沈んできたおかげで今回は何の問題もない。家へ帰るには遠回りになるが進行方向になるので決して無駄ではない。
僕と月夜は談笑しながら外周路を歩いていく。
「第一回デートの総評を決めなきゃいけませんね」
「そうだねぇ」
暗くなっても月夜の栗色の髪は明るさを保ったままだ。月夜も今日一日その美しさがあせることはなかった。
僕の評価としてはどうだろう。月夜がずっと可愛くて……一緒にいてずっとドキドキしていた。そんなとこだろうか。
とても口に出せないのでこのように話すしかない。
「やっぱり図書館が一番かな」
「もう! それじゃ意味がありません!」
「月夜はどうなの?」
月夜は言葉を止め、空を見上げる。そんな仕草も絵になるな。
そして僕の方をちらっと見た。吸い込まれそうなほど綺麗な瞳だ。何を考え、何を思っているんだろう。
月夜は口元を緩めて、口を開く。
「TPOを弁えた服装にすべきでしたね」
「次は事前にやること決めておきたいね」
「ってことは次もちゃんと来てくれるんですね」
「あっ」
ちょっと屈んだ様子で言質とりましたよなんて言われたら……次も一緒に行きたくなるよな。
本当に月夜といると飽きない……。
「そろそろ暗くなってきましたし……帰りましょうか」
終わってしまう。月夜とのこの触れ合いが終わってしまうんだ。
本当にこれでいいのか。
恐らくこの機会を逃せば二度と発生しないかもしれない。
でも……断られたりしたら……月夜を困らせたりしたらと思うと勇気が出ない。
「月夜!」
「は、はい!」
夕日はまもなく沈む。まだ夏の温かみを持つ風が僕と月夜の間を通り抜けた。
今日1日、ずっと月夜と過ごしてきた。
この胸の中にある気持ち、ずっと抑えてきたけど、我慢ができない。
びっくりし、胸の付近で構えている月夜の腕を僕は掴んだ。
「いきなりでごめん。でも僕は君にどうしても言いたいことがあるんだ」
「そんな……あの……えっと」
「ずっと……ずっと」
僕自身もやりすぎているのかもしれない。月夜の腕を思わず掴んでしまい、後には引けない状況だ。
月夜も照れたように、でも少し怯えているように目をキョロキョロとさせている。
息が荒くなってきた。緊張が走っているのだろう。言うなら今しかない。月夜もじっと待っている。
「僕は……月夜が」
「―――っ!」
僕を大きく息を吸った。
「月夜の写真を撮りたい!!」
「……はい……はい!?」
変態と罵倒されるかもしれない。僕は怖くて……目を瞑ってしまった。
恐る恐る目を開けると……とっても呆れている月夜ちゃんの顔が見えました。
体中の熱が下がった気がした。
「まったく!」
腕を離すと月夜は前を歩いていく。
嫌とか変態とかそういうわけではないみたいだが怒らせてしまったようだ。
「期待しちゃった私がバカみたいじゃないですか!」
とっても怒っていらっしゃる。
「期待って何が?」
「何でもありません、バカ!」
「バカ!?」
そこで月夜はようやく足を止めてくれた。
「そんなに私を撮りたいんですか」
「今まで見た女性で一番綺麗だったから……あっ」
「~~~~~~~っ!」
月夜は夕日と見間違うくらい顔を紅く染める。
今のはさすがに……直球すぎたかもしれない。褒め言葉だから機嫌を損なってはいないと思うんだけど……。
「どこをバックで撮るんですか」
「いいの!?」
「私もせっかく着飾ったので……だけど、私と太陽さんしか見ちゃ駄目ですからね!」
当然だ、誰にも見せるものか。ロックをかけてデータの奥底に沈めてやる。
月夜に夕日を正面に立ってもらい、僕は持ってきたカメラを手に取る。
ちょうどマジックアワーの時間かもしれない。一番芸術的な写真が撮れる時間帯だ。
僕のカメラ技術では芸術的なものは撮れない。でもこのチャンスを逃したくなかった。
ファインダーに月夜の姿を収めて、余計なものは全てぼやかす。
ただ一つ……一番美しいものだけを僕は何枚も何枚も撮った。
「日が沈んじゃいましたね」
何度も何度もカメラの再生ボタンを押し、十数枚撮った月夜の写真を眺める。
今日の成果報告ではないけど……全てがそこに詰まっていたと感じる。
嬉しくて涙が出そうだ。でも……出るのは涙じゃなくて。
「どうですか?」
「月夜……」
僕はカメラから視線を外し、月夜に向けた。思い返すと多分、今日一番の笑顔をしていた気がする。
「この月夜は……今日一番綺麗だったよ!」
◇◇◇
日が暮れてしまったので遠回りとなったが神凪家まで送っていった。
初めは遠慮されたが、今日の月夜の服装は何かあると逃げられない恰好である。
強引に押し切った。
神凪家へ到着するまで穏やかな会話し、アパートの階段の前へ到着した。
階段を登ろうとする月夜に声をかける。
「月夜……もう一個いいかな」
「はい?」
わりと切実な思いをもう一度伝える。さっきはOKだったし、今回もOKなはずだ。
「今後もよかったら写真を撮らせてもらえると」
「太陽さんって変態ですか?」
「言われたァ! 言われたくなかった言葉を言われたァ!」
僕の休日は実に充実したものとなったのだ。
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