020 告白

「月夜……行くぞ」

「うん、行こうか」


 昼食も終わり、昼休みの途中で星矢と月夜は立ち上がった。


「どこ行くんだよ」

「いつものアレだ」


 疑問に思って問いかけたら星矢は疲れたように息を吐いて答え、月夜も同意するように頷く。


「場所はいつもの所だ」


 星矢と月夜は教室を出て行った。ああ、なるほど。

 これから始まるのはこの学校の名物である神凪兄妹への告白タイムである。

 月夜は告白されまくりの学園のかぐや姫、星矢は星の王子様なんて呼ばれて、こいつも告白されまくりだ。


 2人とも成績トップでルックスも最上、星矢は重厚かつ穏やかな声質で、月夜は澄んだ川のように綺麗な声をしている。耳触りの良い声なだけで魅力増大だよね。そのためとにかく3学年問わず告白される。

 星矢は最近落ち着いてきた方だけど、月夜はやばい。学校始まったらピークで週に10回以上告白されるから大変だと思う。


 僕はいつも通り、星矢の告白を見物しに教室を出て行く。告白された星矢をからかうのではなく、慰めにいくのだ。

 告白される人間をなぜ慰める必要あるのかと思うかもしれないけど……好きでもない人間に本気の気持ちで好きだと言わて、それを断って悲しませるのって結構精神に来るらしい。

 僕は経験がないのでよく分からないが……星矢はあれで優しい奴なんだよ。


 自販機でブラックコーヒーを買っていつもの所へ行く。

 そこは校舎裏だ。木々が生い茂っており、特に夕方は薄暗い空間に夕陽が差し込んでくるので告白するのにベストマッチなのだ。

 今はお昼なので夕日は関係ないがこの場所が告白に適したスポットなのに変わりはない。あと屋上かな。


「神凪さんのこと……入学の時からずっと好きでした。俺と付き合ってください」

「あ……」


 あれ……星矢じゃない月夜だ。

 場所を間違えたのかもしれない。さすがに月夜が告白されている所を見るのは良くない。

 しかし、この声が聞こえる位置から今、不用意に顔を出すわけにもいかない。


「ごめんなさい。気持ちはとても嬉しいです。でもお付き合いはできません」

「……そ、そうだよね。やっぱりお兄さんのような人が」


 月夜の告白を断る常套手段は兄である神凪星矢よりも魅力的でないと付き合う気はないということだ。眉目秀麗、2年で成績トップ、運動神経も体育の成績で10段階余裕の10 こいつを超える人間なんてそうはいないよな。

 こう言われて食い下らない人間はいなかった。今回もそれで断るのだろう。


「違います」


 え?


「私もあなたと同じように好きな人がいます。その人のことで……私は頭がいっぱいなんです。だからその人以外でお付き合いすることは考えていません」


 僕の今の位置からは月夜の姿は見えない。だけど声色からその人をことを本当に想っている……そのような感情が聞き取れる。

 告白をした男子生徒は何も言わず立ち去ってしまった。今の月夜の告白内容が広まってしまうんだろうか。

 ここの場所は見えないはずだし、月夜がいなくなるまで待機することにしよう。

 その時、僕のスマホが鳴りだす。


「ーっ!」


 こんな時に着信!?

 誰だよ、こんなことするのは……神凪月夜。


「み~つけた」

「あははは……」


 さっすが月夜さんは恐ろしい子だ。

 隠れた場所から抜け、僕と月夜は陰になっているベンチに腰掛けた。


「ごめん、覗くつもりはなかったんだ」

「お兄ちゃんが場所を間違えた時点で可能性は考えてました」


 やっぱり間違ってたのか。となると星矢は屋上かな。

 月夜は真剣なまなざしで僕を見据える。


「太陽さんは好きな人……いますか?」

「えっ」


 月夜からそのような質問が来るとは思わなかった。僕は好きという言葉を使うことに抵抗があり、言葉がうまく出せない。


「今は……いないよ」

「あんなに周りに綺麗な女性がいるのにですか?」

「そうだね。ほぼ全員君の兄貴が好きだからね」


 露骨に好意を持つ人間に対してなかなかそのような恋愛感情は起きないね。

 今日いるグループで星矢にまったく好意の無い人間は……目の前の月夜くらいなものだろう。


「じゃあ告白をされたら付き合ったりしますか」

「考えられないかな。今は誰とも付き合う気はないよ。……そもそも告白されたことないし」


 これも事実だ。正直僕は付き合ってる自分を想像できない。例えば星矢と水里さんが付き合うなら美男美女同士で想像もできるし、きっと僕は祝福するだろう。

 だからこそ僕は自分が誰かと付き合うことを想像できない。そもそも告白されることはない。

 そのまま間髪いれず、月夜に問いかけた。


「月夜はどうなの。好きな人がいると言ってたけど……その人に想いは伝えないのか?」


 今度は逆に聞いてみる。このような問いはずるいのかもしれないけど、月夜は真剣なまなざしを崩し、少し弱弱しさを見せた。


「もし……告白したとして、太陽さんは応援してくれますか」

「応援するよ」

「えっ」


 予想外の回答だったのかもしれない。月夜は呆けて見せた。


「僕は君の恋を応援する。君の力になるよ……月夜の兄貴の親友として」


 月夜は急にベンチから立ち上がった。顔を背け、その表情は見えない。


「授業があるので戻ります……」


 悲しげな声と共に月夜は急いで走り去ってしまった。1人残された僕は大きくため息をつく。


「最低だな……僕は……」


 月夜は僕が好きであってすきかどうかが分からなかった。親愛だけならいい……でも本当に恋をしているのであれば手を打たなければならない。

 だから僕は楔を打ったのだ。今は誰とも付き合う気がないこと、月夜が僕に告白しないように仕向けたこと。

 これで今までのような関係ではいられなくなるだろう。


 この8月の月夜との日常を思い出すと落ち込んでくる。おそらくはもう……月夜は僕に……。土曜日の外出もきっとキャンセルだろう。

 彼女の気持ちが恋なのであれば……の話だけど。

 ポケットのスマホが鳴り響く、メールかな。月夜から……? なんだろう。


「土曜日朝10時に駅前集合でお願いします。楽しみにしてますね」


 ……はぁ!?


「なにこれ……えっ!? やっぱ親愛での好きだったのか……えっ!?」


 女の子の考えてることがぜんぜんわからーーーーーーん!

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