013 登校

 7時30分前後に迎えに行き、8時前に神凪兄妹の家を出る。歩いて20分くらいなので、30分の予鈴には間に合うということだ。

 私立恒宙こうちゅう学園の制服は男女ブレザーである。男子は普通だけど、女子は胸元にリボンがあり、赤のチェックのスカートとの組み合わせが実に可愛らしい色彩となっている。制服人気が高いんだよな。

 そんなブレザーを月夜が着るだけで感動物だよ。


「どうですか? 制服、変な感じなってないですか?」

「うん、とっても似合っているよ」

「えへへ、ありがとうございます」


 僕の右隣に月夜、左隣に星矢で並んだ状態で僕達は学園に向け歩き始める。今日はいい天気だな~。朝から暑くて汗が出てしまうよ。夏休みだというのに授業があることが憂鬱だ。

 体育科や普通科は休みってのが羨ましいな。体育科は部活動で大変だろうけど。


「こうやって3人で行くのは初めてかもしれませんね」

「そうだね。月夜のお迎えの2人は特進科じゃないし、……そういえばあの騒がし娘はどうしたの?」

「あいつは今日まで帰省だ。明日から登校だとよ」


 どーりで静かなわけだ。いつもは6人で登校してるからワイワイなんだよね。おまけに僕以外のメンバーが全員美形というね……。何とも言えない。


「今日は5限までですよね。その後は図書館でも行くんですか?」

「迷うけど、今日は部活に出ようかなと思ってる。その前に美化委員の活動しないといけないんだよね」

「美化活動ですか……」


 登校初日だというのに大忙しだよ。入院のこともあったから部活も休んでいたしねぇ。そろそろ出ておかないと監督に怒られそうだ。



「この前、月夜にオススメされた恋愛小説すごくよかったよ。面白かった」

「ほんとですか! やったー! 今度感想言い合いましょう。週末、また図書館で」

「うん、いいよ」

「お前たち……随分と仲がいいな」


 横やりを入れるように視線を強める星矢。

 神凪星矢は妹を大切に想う、悪く言えばシスコンだ。2人暮らしで妹がこんなにかわいければシスコンであることはおかしくない。

 シスコンの星矢の前で月夜と仲良くしすぎたかもしれない。


「そ、そうか? 前からこんなもんじゃないか」

「おまえが月夜とはいえ女と気さくに話していることに驚きを隠せない。いつのまに月夜って呼ぶようになったんだ? 雨でも降るんじゃないか」

「悪かったな。残念ながら今日はド快晴だよ」


 星矢はさらに体を前に起こす。


「月夜だっていつもは俺の隣か女友達あいつらの側なのに太陽の横とは珍しい」

「最近は隣でいることが多かったからかな」


 月夜は嬉しそうに、そして恥ずかしそうに通学カバンで顔を隠そうとする。

 やっべぇかわいいな。2人で科学館に行った時のことを思い出し、顔が熱くなる。星矢に気取られないようにしないと。


「まぁ、節度ある付き合い方なら別に構わないが」

「え?」

「なんだよ」


 星矢の理性的な言葉に僕は信じられない顔をする。


「シスコンの星矢が殊勝なことを言うなんて……月夜に近づく不埒な男はぶち殺すって言ってたからさ」

「太陽……おまえは不埒な男じゃないだろう」

「そうか。信じてもらえるなんて……僕はいい友達を持ったなぁ」

「おまえみたいな頼りない奴が月夜をどうにかできるわけないだろう。天から槍を降らす気か?」

「にこやかに言ってるところ悪いがブッコロス」


 こんなやり取りは日常茶飯事だ。言葉は荒いが僕と星矢の関係はこんなもんである。


「月夜、じゃあこれからは2人で登校しようか」

「え!? あ、はい!」


 月夜は最初にびっくりした表情をしたが星矢を煽る冗談と気づいたのかニコリと笑ってくれた。これで気づかれなかったら相当恥ずかしいよね。


「は? 節度を持てといっただろう」


 星矢から鋭い睨みが発揮する。シスコンの我慢限度はこのへんか。


「冗談だよ。ねっ、妹ちゃん」

「は? 月夜ですけど」


 月夜からも鋭い睨みが発生する。


「2人とも同じ顔で睨むのやめてくれよ……」


 神凪兄妹に挟まれ、にらまれた僕はため息をつきながらも……こんな会話が楽しくて今日も1日頑張ろうと思えた。

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