014 お昼ご飯

 4限の授業が終わり、昼食タイムだ。この学校の昼食はどこで食べても自由である。

 教室で食べる人、部室食べる人、食堂で食べる人、それぞれだ。

 僕は神凪星矢かみなぎせいやと机をくっつけて弁当を食べる。

 結局科で授業が違うので一緒の科の人と食べることがほとんどなんだよね。

 1クラスは特進科、普通科、体育科合わせて40人なんだけど、授業は科によって違うから同じクラスでも科が違うと始業、終業、行事くらいしか関わりがない。

 そのため僕は同じクラスで科が同じで同性の星矢と一緒にいることが多い。他の特進科生徒が女の子というのもある。


 僕と星矢が持ってきた弁当を広げていると……遠くから恐る恐る近づく女の子に気づく。


「あ、あの…‥」

「金葉」

「弓崎さん」


 弓崎金葉ゆみさきかなはさんは後ろに何かを隠して……ちょっと言いずらそうにもじもじしている。なまじ、顔立ちが整っているためか可愛らしく感じる。

 前髪を綺麗に切りそろえ、肩までまっすぐ伸ばした黒髪が実直さを表していた。

 だけど……実直さは時と場合においてはうまく機能しないことがある。150センチほどで小柄な彼女は時としてひどく弱弱しい。

 例えば…‥いつも食事取るグループで異性しかいない時とか……だ。


「どうした?」

「え、えーと」


 星矢がそれに気づくはずがないので……僕がフォローする必要が出てくる。


「今日はあの2人が休んでいるからね。よかったら一緒に食べようよ」

「あ、ありがとうございます、山田さん」

「そういうことか」


 弓崎さんは僕や星矢と同じクラスで特進科の生徒だ。もう2人同じクラスの特進科の女子がいるんだけど今日はどっちも休みなんだよね。

 いつもは同じクラスの5人で食事をしているから…‥男2人しかいないこの状況、話かけづらかったのだろう。ちなみに僕は星矢がいない時は確実にばっくれる。女3人と一緒に交じってご飯とか無理です。

 弓崎さんは机を動かし、引っ付けた。3人、弁当を開ける


「……」

「……」

「……」


 星矢は口数が少ない。弓崎さんもどちらかという口数が少ない方だ。こういう時よく喋る休んだ2人の存在が大きい。

 仕方ない……僕から話を振ろう。


「弓崎さんはお盆休みとかどうった? どこかへ行ったの」

「部屋で勉強していました」


 はい、会話終了。

 月夜以外の女の子との会話なんてこんなもんです。


「神凪さんは来月の実力テストどうですか?」

「いつも通りだな。大したことはない」

「今度は負けませんから……それで、その」


 弓崎さんは箸を起き、言いずらそうに言葉を濁した。

 頬は赤みを帯び、試すような問いかけるような……見ている分にはじれったい。


「ん?」

「もし……私が勝ったら……いえ、何でもないです」


 星矢に向けて問いかけたが、星矢と目が合って思わず目を逸らした。

 この2人、特進科30人の学力1位、2位を1年の時から独占している。2位の弓崎さんが一方的に星矢をライバル意識している構図だ。

 夏期講習が終わって9月に入ればすぐに実力テストの日がやってくる。2人の関係性はやはり勉学という所が大きい。

 ふっ、20番台常連の僕には気の遠くなるほど遠い話だね。


 さらに言えばそんな弓崎さんは星矢のことが好きである。1年の終わりの頃いろいろあったんだけど……今はそれはいいだろう。


 その時、教室の中がどよめいた。僕も星矢も弓崎さんも……声がした部屋の入口の方へ視線がいく。

 栗色の髪を持つ少女が弁当箱を持ってこちらに近づいてきた。……学校一の美少女、学園のかぐや姫、神凪月夜が現れたのだ。



「かぐや姫だ」

「かわいい」

「結婚したい」


 月夜のかわいさに心を惹かれた男達の声が僕達の耳にも入る。

 入試の成績1位の生徒が入学時の挨拶をするのだが……それを愛くるしい笑顔をした月夜が行ったことで在校生である2,3年の男子の心を鷲掴みされてしまった。

 しかもそれが学園で男子人気ナンバーワンの星矢の妹であったことも拍車をかける。


「金葉さん、こんにちは!」

「はい、月夜さんも元気そうですね」


 月夜は空いている席から椅子を取り、僕達のくっつけた机の横に椅子を置いた。

 そして僕の横に来る。なぜここに……? 星矢や弓崎さんの机じゃダメだったんだろうか。


「今日、友達が休んでて……いづらかったから来ちゃった」


 月夜は同じ学年の幼なじみ達とお昼を食べている。その2人は科が違うため今日は学校に来ていないのだ。

 それでわざわざこっちに来たらしい。しかし、さっきから視線が凄いな。やっぱ月夜かわいいもんなぁ。


「太陽さんと一緒~、ごはん一緒~」


 僕の隣でにこやかに歌いながら弁当の蓋を開く月夜に……毎日こんなお昼だと楽しんだろうなと思ってしまうのであった。

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