2章 8月中旬

012 神凪兄妹

 僕が通う私立恒宙こうちゅう学園は難関大狙いの特進科、体育科、普通科の3つがある。

 特進科に所属する僕は夏期講習という名目で8月の20の週に1週間授業があるのだ。

 僕は意外に頭良いのですよ。……。成績は30人中20番台の常連だけどね。


 そんな僕にはもう一つ重要な役目がある。特進科成績トップの親友、神凪星矢かみなぎせいやを迎えに行くということだ。

 星矢は妹である神凪月夜かみなぎつきよと2人暮らしをしており、僕は登校日の朝に兄妹の家に寄っていく。さらに言えばその家の合鍵を持っている。もはや兄妹の通い妻状態だ。


 セキュリティ意識の低い2階建てのアパートの階段を上がって端から2番目の204号室の前に来る。1回だけチャイムをするがそんなことで起きてくるなら僕はここにいない。

 合鍵を使って扉を中に入る。小さいけど一応1LDKというのだろうか。ダイニングキッチンには見えないキッチンを通ってリビングへと着いた。さてとさっそく起こすか。


「ふあぁぁぁーー」


 ふいに扉が開いて、大欠伸でリビングに出てきたの女の子こそ神凪月夜だ。

 ピンクのパジャマを着崩し目をこすって虚ろな表情でまだぼんやりしている。トイレか何かで目が覚めた感じっぽい。

 そんな乱れた姿も月夜ほどの容姿であれば思わず見つめてしまうほど魅力的だ。


「あれ……」

「やぁ、おはよう」


 月夜と目が合う。まだ寝ぼけているようだけど……時間が経つにつれて、次第に覚醒していき、月夜の目が大きく開いた。


「アレっ!? アレっ、何で太陽さんがここに!?」

「今日は登校日だよ。月夜も特進科だから授業あるでしょ」

「あ……ああ、そういえば…‥」


 月夜も納得したようだ。さすがに登校日を忘れるような子ではない。兄同様、寝ぼすけでなければこんなやりとりも生まれないんだろう。

 そしてもう一つ注意しておこう。


「と、とりあえず着替えようか。目のやり場に困るし」

「え?」


 月夜は目線を下げて自分の体を見る。パジャマがめくれあがって、かわいいおへそが見えている状態だ。夏もまだまだ暑いため、二の腕や肩も肌が晒されている。

 何となくだけど今の月夜だと……。


「ひゃああ!?」


 慌てて、服を直して、ダッシュで月夜の部屋まで戻り、扉で完全に体を隠した。長い栗色の髪を下げた状態でひょこりと顔だけ出す。

 その表情は恥ずかしさで頬を紅くしており、目線も合わせてくれない。


「こんな恥ずかしい恰好見せるなんて」


 月夜ほどかわいい女の子であれば何の不利益もない。むしろ得でしかないのだ。これだからこの役目は止められないというのもある。

 ただ……限度があるので言っておこう。


「今日はまだマシな方じゃないかな。前に下着姿だった時は……相当に焦ったし」

「や、やだあああ! もう、学校休む!」


 月夜はドアを閉めて閉じこもってしまった。まぁ学校を休む子ではないのでいいとして……これで少しは無防備な面を改めてくれればいいかな。

 でも……本当に。


「かわいいな」

「おい、うるさい」


 リビングルームで寝転がるのがこの家の主である。さきほどの大声のやり取りは彼を起こすためということもあった。

 神凪星矢かみなぎせいや僕の親友であり、月夜の兄貴だ。


「星矢、もういい時間だぞ。さっさと起きろよ」


 星矢はむくりと掛け布団を外し、テーブルに置いてあるスマホを手に取る。


「7時30分……。まだ夜じゃないか」

「おまえ、このお天道様見えてないの?」


 兄妹揃って朝はボケボケである。これが全科目満点、2年の成績をトップで走り続けている男には見えない。

 星矢は起き上がり、栗色の髪を無造作にかく。星矢と月夜……比べてみると本当に瓜二つの兄妹なのだ。妹が絶世の美少女であれば……神凪星矢は稀代の美青年といった方がいいか。

 アイドルやイケメン俳優と評されてもおかしくないほどの甘いマスクを持っており、学校の女子達の羨望を集めている。

 僕としては同性だから顔の面はどうでもいいけど、圧倒的な存在感を示す所は素直にすごいと思う。……こうやって朝を起こしにいかないといけないのが問題だけど。


「今日は学校休む」

「妹と同じこと言ってんなボケぇ! さっさと起きろぉ!」


 敷きふとんを引っぺがしって星矢を蹴り飛ばす。今日も騒がしい日が始まるな。

 でも……僕はこの神凪兄妹と触れ合える日々が何よりも楽しく、待ち焦がれていたのだ。

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