010 迷子
僕は正直優しい人間ではない。
喧騒も出来る限り避けるし、ダンボールに入って捨てられた猫も助けない。出来る事、出来ない事は割り切るようにしている。
なので例えば目の前で泣いている小さな女の子がいても僕は助けるかどうかを見極なければいけない。この手を使えるなら僕はこの子供を助け、使えないなら警察にでも連絡して保護してもらう事にする。
僕は自分の容姿を自覚している、下手すれば変な誤解を与えてしまいよくない結果となる。それは多分誰も幸せになれない。
僕は唯一頼りになる人に連絡をした。
断られても問題はない。断られること前提の連絡なのだから。
僕はスマホで着信をかける。
「はい!」
まさかのワンコール。
いや、好意とは関係なく……携帯を触ってたら1コールで出るか。僕も彼女もスマホ中毒だし。
「……の事情でもし時間があったら」
「今いる場所教えてください、すぐ行きます」
10分もしない内に親友の妹、
今日はピンクのカジュアルシャツにスカート……。何着てもかわいいって本気で凄いな。誰でも着てそうな服なのに……美しさってすごい。カメラ持ってくればよかった。スマホじゃダメかな。
月夜は走ってきたのか息を切らしていた。汗をかいてる姿は美しくもあり、申し訳ないなと思う。
「忙しい所ごめんね」
「暇でしたから! それであの子ですね」
もうすでに泣いている女の子を発見して20分近く経っている。僕が月夜の兄貴ぐらい容姿端麗であれば声かけても問題ないだろうけど……、ほんと駄目だなぁ。
月夜は泣いている子供に話しかけた。少しのやりとりの後、僕もその輪に加わる。
「おうちが分からないの」
まだ3歳の女の子で思った通り迷子のようだ。名前は分かったが当然住所が分からない。
「大丈夫だよ。おねーちゃんとおにーちゃんが連れてってあげる」
さすが月夜は子供慣れしているなぁ。彼女のバイト先と子供好きがうまく合わさっていい結果となっているのかな。
僕は時々話に入りつつ、情報を集める。交番に行くまでに見つかればいいな。
「SNSで上がっているね。多分この子だ!」
「ほんとですか!」
スマホを操作しているとちょうど捜索の話題が回ってきていた。こういう情報はやっぱ早いな。送信元の母親と連絡を取り、念のため交番の前で待ち合わせをした。
「おかーしゃん!」
交番に到着しおまわりさんの立会いの元、やってきた母親に女の子は飛びついた。ふぅ、これで一件落着だ。
女の子の母親が僕達に頭を下げる。
「2人とも本当にありがとうございます。デート中にごめんなさい」
「デート!?」
月夜はびっくり慌てふためく。可愛い反応だけど否定しておかないと可哀想だな。
「僕と彼女はただの友人ですよ。そんな大した関係じゃありません」
「ひっ! お姉ちゃん怖い」
「え」
女の子が鬼を見たような顔をしたので振り向いたが……そこにはいつもの愛らしい笑みを浮かべた月夜の姿があった。何の顔を見たんだろうか。
女の子と母親と別れた僕達は帰り道につく。
いつも通りだけど……なんだか月夜の機嫌が悪い気がする。
「何か……怒ってる?」
「怒ってませんよ。私達は大した関係じゃないので」
なんか含みのある言い方だな。友人以上の関係ではないので間違ってないと思うんだけど……。
まぁいいや、礼だけは言っておこう。
「でも来てくれて本当にありがとう、助かったよ」
「え? あ、はい」
「女の子だったから君の兄を呼ぶわけにもいかないし……僕が1番頼れる女の子って月夜ぐらいだからほんと助かった」
月夜は急に立ち止まる。僕もつられて立ち止まってしまった。不思議に思ったけど僕は話を続ける。
「僕は女の子と話すのほんと苦手だからさ、他の子じゃ頼めないんだよ。だから月夜は特別だよ。すぐに電話出てくれて……ほんとありがとう」
「……」
反応がないな。さすがにちょっと失礼だったかも。僕が特別なんていっても男性からモテまくる月夜にとってはそんな特別大したことはない。
むしろセクハラっぽくて……嫌がられている? 嫌な予感がし、おそるおそる月夜の顔を覗き込む。
「へへへ……特別、私は特別なんだぁ、えへへ」
これまで見た事ないような笑顔だった!? 両手を頬にあて、体をくねくねし始める。
そんな反応されて喜ばれるとさすがに照れる。いや、マジか。いや……そんな。
私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない
違うよな、絶対的違うよな。
でも親愛ってこんな顔するだろうか……。
月夜は僕が好きであってもそれは恋では……ない……ないはずなんだ
「な、何かお礼をするよ! な、何がいいかな」
「え?」
このままじゃ話が進まない。
無理やりとってつけて話題を変えたら月夜は表情を戻し少し考える。
「じゃあ」
「うん」
「今から私とデートしてください」
「うん……うん!?」
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